日本大百科全書(ニッポニカ) 「共同変動相場制」の意味・わかりやすい解説
共同変動相場制
きょうどうへんどうそうばせい
joint float
共同フロートともいい、貨幣ブロックを形成している諸国が、域内では固定相場制をとりながら、域外に対しては共同して為替(かわせ)相場を変動させる制度をいう。1973年2月から3月にかけて起こった通貨不安の際に、EC通貨同盟加盟国のうちイギリス、イタリア、アイルランドを除く旧西ドイツ、デンマーク、オランダ、ベルギー、ルクセンブルク、フランス6か国と準加盟国であるスウェーデン、ノルウェーの計8か国がこの制度を採用した。すなわち、域内では縮小変動幅(基準交換レートの上下2.25%)を維持しながら、ドルに対しては共同で変動することにした。為替相場の変動のありさまがヘビの動きに似ているのでスネークともよばれる。ところで、その後も通貨不安は収まらず、為替投機によってこの制度はしばしば重大な脅威にさらされ、マルクは再三切り上げられ、フランス・フランは再度にわたって離脱した。このような状況下、共同フロートの強化を図るため、79年に域内における為替相場の変動幅を一定の枠内(当初は基準交換レートの上下2.25%、93年8月以降は15%)に維持することを義務づけたヨーロッパ通貨制度(EMS)が設立され、ヨーロッパ通貨単位(ECU(エキュ))、為替相場機構(ERM)が導入された。その後92年に単一通貨の発行スケジュールが盛り込まれたマーストリヒト条約(ヨーロッパ連合条約)が調印され、99年には決済通貨として単一通貨ユーロが導入されるに至った。
[土屋六郎]
『土屋六郎著『変動相場制』(1980・中央大学出版部)』▽『今宮謙二著『変動相場制と国際通貨』(1991・新日本出版社)』▽『石見徹著『国際通貨・金融システムの歴史』(1995・有斐閣)』▽『平勝広著『最終決済なき国際通貨制度――「通貨の商品化」と変動相場制の帰結』(2001・日本経済評論社)』▽『白井早由里著『入門 現代の国際金融――検証 経済危機と為替制度』(2002・東洋経済新報社)』