日本大百科全書(ニッポニカ) 「凹版印刷」の意味・わかりやすい解説
凹版印刷
おうはんいんさつ
intaglio printing
印刷に使う版面の画線部が版の表面よりも低くなっており、この部分に印刷インキを詰めて印刷する方法。彫刻凹版とグラビア印刷がある。前者は銅版画と同じように、手工的に模様を版材に彫刻して凹版とする方法である。後者は写真や文字を原稿とし、これに相当する画線を、写真技術を利用して、細かい多数の凹点で構成させて版とするものである。彫刻凹版印刷は印刷速度が遅く少量生産であるのに対し、グラビアは高速大量印刷を主とする。両者の製版方法、印刷機械、印刷インキはまったく異なり、印刷物の特徴と用途は別のものである。
彫刻凹版には、ビュランburinなどの彫刻刀を用いる方法やドライポイントdrypoint針で浅く彫り込むドライポイント法など、版材に直接彫刻する方法と、版材に防食膜を塗っておき、この上から針で防食膜を削り取り、版材の金属を露出させて腐食液で金属を腐食させて凹版とする食刻凹版(エッチングetching法、アクアチントaquatint法)とがある。前者はシャープな硬い感じの印刷物が得られ、後者は軟らかい感じの画線となる。また両者を併用することもある。彫刻凹版はインキの盛り上がりのある味わい深い印刷物が得られるが、一方印刷速度が遅く、製版および印刷コストがかさむ。主として紙幣や証券に使われ、名刺やメニュー、レターヘッドletterhead(社名などを入れた書簡紙)にも用いられることもある。
グラビアは、写真の調子をよく表現し、高速印刷ができるので、雑誌の写真を中心としたカラーページや写真集の印刷に利用される。また紙以外のプラスチックや金属箔(はく)にもきれいに印刷できるので、パッケージ(軟包装)の印刷にも利用されるほか、木目模様の印刷をして板に張り付け化粧板として家具や建材に用いられる。欠点は、部数の少ない印刷では高価につくことである。なお、グラビアの濃淡の差は、凹みの深い浅い、または凹みの大小、またはその両方で再現する。
印刷機には手刷り機、枚葉印刷機(A判、B判など一定のサイズに断裁された紙=枚葉紙に印刷する機械)、輪転印刷機がある。
[平石文雄・山本隆太郎・中村 幹]