刀自(読み)とじ

精選版 日本国語大辞典 「刀自」の意味・読み・例文・類語

とじ【刀自】

〘名〙 (「戸主(とぬし)」の意で、「刀自」はあて字。家の内の仕事をつかさどる者をいう)
家事をつかさどる婦人。主婦。いえとうじ。
書紀(720)允恭二年二月「圧乞(いで)、戸母(トジ)、其の蘭(あららき)一茎(ひともと)といふ〈圧乞、此をば異提(いで)と云ふ。戸母、此をば覩自(トジ)と云ふ〉」
② 女性を尊敬または親愛気持をこめて呼ぶ称。
※山名村碑‐辛巳歳(681)集月三日「佐野三家定賜健守命孫黒売刀自」
③ 年老いた女。老婦人。
※十巻本和名抄(934頃)一「負 劉向列女伝云古語謂老母負也〈今案和名度之 俗用刀自二字者訛〉」
④ 平安時代以降、宮中御厨子所(みずしどころ)・台盤所(だいばんどころ)・内侍所(ないしどころ)などで、雑役を勤めた女官
※枕(10C終)一三八「使にいきける鬼童(おにわらは)は、台盤所のとじといふ者のもとなりけるを」
⑤ 貴人の家に仕えて雑役などをする婦人。
※栄花(1028‐92頃)若ばえ「宮々の刀自・をさめにてもこの御子をだに生みたらば」

とうじ【刀自】

〘名〙 (「刀自」はあて字) 「とじ(刀自)」の変化したもの。

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デジタル大辞泉 「刀自」の意味・読み・例文・類語

とじ【刀自】

《「戸主とぬし」の意で、「刀自」は当て字
年輩の女性を敬愛の気持ちを込めて呼ぶ称。名前の下に付けて敬称としても用いる。
一家の主婦。
「からたちのうばら刈りけ倉建てむくそ遠くまれくし造る―」〈・三八三二〉
宮中の御厨子所みずしどころ台盤所だいばんどころ内侍所ないしどころなどで雑役を勤めた女官。
「台盤所の―といふ者の」〈・一三八〉
貴族の家に仕えて家事を扱う女性。
「宮々の―」〈栄花・わかばえ〉

とうじ【刀自】

とじ(刀自)

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「刀自」の意味・わかりやすい解説

刀自
とじ

女性に対する古風な尊称。現代でも旧家の女性に対して使われる。古代后妃(こうひ)の称号の一つである夫人(ぶにん)も和訓はオホトジである。戸主=トヌシの約かともいうが不詳。7~8世紀の石碑・墓誌に豪族層女性の尊称としてみえ、『万葉集』にも「妣刀自(ははとじ)」等の例がある。さまざまなレベルの人間集団を統率する女性が原義か。族刀自的なものから家刀自へと推移するが、古代には里刀自や寺刀自もいて、後世のような主婦的存在に限られない。後宮(こうきゅう)の下級女官(にょかん)にも刀自がいた。

[義江明子]

『所京子校訂、浅井虎夫著『新訂 女官通解』(1985・講談社学術文庫)』『義江明子著「「刀自」考」(『日本古代女性史論』所収・2007・吉川弘文館)』『義江明子著「「刀自」からみた日本古代社会のジェンダー」(『帝京史学』26)』

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世界大百科事典(旧版)内の刀自の言及

【杜氏】より

…また,酒造労務者の総称ともされる。杜氏の名の由来については,昔中国で初めて酒をつくった杜康(とこう)の名をとったとする説,奈良・平安時代造酒司(さけのつかさ)が酒をつくるのに用いた壺を〈大刀自(おおとじ)〉〈小刀自(ことじ)〉と呼び,後の人が酒をつくる人をも刀自と呼んだとする説,寺社で酒つくりが行われる以前,酒つくりは家庭を取りしきる主婦(刀自)のしごとであり,刀自が転じたものであるとの説などがある。《日本書紀》の崇神紀に〈高橋邑(たかはしのむら)(現,天理市)の人,活日(いくひ)を以て大神の掌酒(さかびと)とす〉とあり,これが記録に残るはじめての杜氏で,奈良県桜井市の大神(おおみわ)神社境内にある活日神社は現在でも杜氏の信仰を集めている。…

※「刀自」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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