日本音楽の用語。仏教音楽の声明(しようみよう)の音楽理論において,低・中・高の3段階の音域を区別する場合に,その低音域をいう。たとえば,3オクターブに及ぶ五音(ごいん)の配列においては,宮から羽をひとまとまりとして,もっとも低い音域のものを初重という。また,同じ詞章による短い旋律を,低,中,高と音高を変えながら3回反復して演唱するときには,その最初の句をいう。反復するときの音程関係は,理論的にはっきり規定されているものと,規定されていないものとがある。今述べた初重は,二重,三重に対するものであるが,同じ声明でも講式においては,二重,三重のほかに中音,下音なども加わって,単なる音域上の区別ではなくなり,それぞれ固有の旋律と表現形式を備えた楽曲構成上の一単位となっている。すなわち,シラビックに淡々と演唱して,そのあとに続くメリスマ(装飾的声楽様式のひとつ)的な二重や,朗々と演唱する三重を引き立たせるという,いわば地のような機能を持つのが講式の初重である。この用語は平曲にも取り入れられ,節物(ふしもの)の曲で,ゆったりとおだやかに語られる部分と,それに対する琵琶の前奏の手をいう。
執筆者:蒲生 郷昭
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…拾イ類の曲節を多く含む句が〈拾イ物〉とよばれる。(5)フシ類(三重(さんじゆう)・中音(ちゆうおん)・初重(しよじゆう)など) ユリをたっぷりきかせ,最も旋律的な曲節。美文調の部分に多く用いられる。…
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出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」