食物を種別して盛るための重ね容器。家庭でおもに正月や節供,物見遊山などの際に使用されるが,祝儀,不祝儀,お見舞などの贈答として他家へ料理を配る場合にも用いられる。形式は通常,方形扁平の箱を3重あるいは4重,5重に重ね,最上階の箱に蓋をするが,ときに円形や六角形,八角形につくることもある。大きさはさまざまで一定しないが,6寸(約18cm)から1尺(約30cm)程度までのものが一般的である。陶器製のものなどもあるがほとんどは木製の塗物で,それも内面を朱漆,外面を黒漆に塗りわけた内朱外黒の無地のものが多い。またこれに,蒔絵(まきえ)や螺鈿(らでん)などで精巧な装飾文をほどこしたものや,春慶塗などのものもある。〈重箱〉の名は室町時代の饅頭屋本(まんじゆうやぼん)《節用集》に見え,《好古日録》に記されるように,直接的には重ねの食籠(じきろう)から転じたものと思われる。しかし器形や木組みの手法などは,むしろ法華経や最勝王経など数そろいの巻子経を納置するために平安時代から多用されてきた重ね経箱と軌を一にするもので,このような伝統的な重ね箱の形成が生活用具としての重箱の形式に範とされたに違いない。食籠は多く円形あるいは六角,八角などの多角形をなす重ね容器で,室町時代には棚飾の道具の一つとして流行した。この時代の《仙伝抄》《君台観左右帳記(くんだいかんそうちようき)》《御飾記(おかざりき)》などの棚飾図中にも描かれ,その実体が知られる(座敷飾)。
なお重箱の一種の提重(さげじゆう)は,花見遊山など外での酒宴等に便利なように,携帯用重箱として工夫されたものである。組重箱をそのまま手提台にのせ,さげるようにした簡単なものと,提鐶(さげわ)のついた枠型の中に重箱,銀あるいは錫製の酒瓶,杯,銘々皿などを一具として組み入れたものがある。提重は江戸初期の風俗画として著名な東京国立博物館の《洛中風俗図屛風》中の四条河原の場面に,総体黒漆塗蒔絵の事例が描かれており,このころには形式的には完成していたことが知られるが,以後江戸時代を通じて普及した。
→箱
執筆者:河田 貞
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食物容器の一つで、同じ大きさの方形の箱を重ねた容器で、蒔絵(まきえ)などの装飾を施したものが多い。もともと食物の容器には中国渡来の「食籠(じきろう)」というものがあったが、食籠から発達転化して重箱が生まれた。「重箱」の語の初見は室町時代末の『饅頭屋(まんじゅうや)本節用集』で、すなわち少なくともそのころから使用されていたことがわかる。江戸時代の初めころには、宴席での肴(さかな)を盛る器として使われ、またそのまま野外の行楽にも持ち出された。しかし、江戸時代中期から陶磁器の皿や鉢が普及し、また提げ重箱という携帯用の重箱が考案されると、本来の重箱は正月や雛(ひな)祭り、あるいは贈答など、現在と同じ用途に使われるようになった。
[森谷尅久]
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