刺網漁業(読み)さしあみぎょぎょう(英語表記)gill net fishery

改訂新版 世界大百科事典 「刺網漁業」の意味・わかりやすい解説

刺網漁業 (さしあみぎょぎょう)
gill net fishery

刺網を用いて行う漁業。刺網とは帯状の網地で,目的とする水産生物を網目に刺しこませたり,網地にからませたりして漁獲する漁具である。一般に,対象種の移動進路を遮るように,あば(浮子)といわ(沈子)を調節して垂直に張る。浮魚,イカなどを対象とした浮刺網,底魚,エビ,カニなどを対象とした底刺網がある。また,錨などで固定して使う場合と,固定せずに使う流し網とがある。網の高さは対象種の遊泳層の厚さ,群れの密度によって決まり,長さはかける場所,取扱いの難易によって決まる。内湾や磯でカニやイセエビなどをとる小規模のものから,10kmを超すサケ・マス流し網のような大規模のものまでさまざまだが,適当な長さの1単位を1反と呼び,必要な反数をつなげて使う。サケ・マス流し網などは数百反にもなる。対象群の個体が中程度で形がそろっている場合は網目に刺しこませ,形・大きさがいろいろなエビ・カニ類のような場合,また,マグロ・カジキなどのように大型の個体を対象とする場合は網地にからませる。材料としてはじょうぶなこと,見えにくいことが必要で,現在はナイロン系の合成繊維が使われることが多い。また,夜間に設置しておくのが普通である。目的に合わせて,網目の大きさ,網地の張りの強さを加減する。縮結いせ)は網目に刺しこませる場合3~4割,からませる場合は4~6割とし,7割近くにすることもある。網目に刺しこませる場合,網目の大きさでとれる魚の大きさの範囲が限定される(網目の選択性という)。調査目的のために何種類かの網目のものを組み合わせて使うことがある。また三枚網trammel netといって細かい目の網の両側にその2~3倍の大きさの網をつけたものもある。漁獲の効率がひじょうによく各地の沿岸で底刺網として使われることが多いが,効率がよすぎるため,使用を禁止している地域も多い。最終的に魚を捕り上げるのは網にからませたり,網目に刺しこませるので刺網の中に入れられるが,漁法的には他の漁法と複合したものもある。すなわち,魚群を包囲するように網をかける巻刺網ボラブリクロダイなど),張っておいた網に魚群を威嚇して追い込んでとる狩刺網(ボラ,タイ,キス,コノシロアオリイカなど),網を船で引き回す漕刺網(こぎさしあみ)(アマダイ,キスなど)である。

 固定式刺網は漁具が比較的簡単で沿岸漁業で多く用いられ,底魚・磯魚のほかブリ,ハタハタ,シラウオ,サメ・エイ類,それにイセエビ,クルマエビ,ガザミなどエビ・カニ類,コウイカ類,サザエなどの巻貝類など対象もさまざまである。流し網の代表的なものはサケ・マス流し網漁業であろう。母船式・中型・小型など船の大きさは違うが漁具構成には大きな違いはない。網丈6m,1反50m程度の網を数十反または数百反,漁場に流す。日没前に終了するように投網し,網端にはラジオブイをつける。揚網は夜中の午前1~2時ころから行う。トビウオ,サンマ,サバ,アジ,カマスなど各種の流し網漁業があるが,最も大物がとれるのは東シナ海あるいは太平洋で行われる大目流し網漁業で,15~18cmという大きな網目の網でマグロ類・カジキ類をとる。マカジキ,メカジキ,シロカジキの漁獲が多く,カジキ流し網ともいわれる。近年発達したものにアカイカ流し網漁業がある。不振のスルメイカの代りにアカイカ資源の開発が進んだが,これを対象として昼間流し網でとる漁法が発達した。集魚灯の必要がなく,漁獲の効率がよいため急速に普及したが,釣業者との争いが多く,資源にも問題を生ずるということで1979年1月1日以降,東経170°以西での操業は禁止された。

 欧米でも古くから広く使われ,ニシン,サケ・マス類,タラ類,サバ,カレイ類,エビ・カニ類など多くの種類を対象として行われている。
網漁業
執筆者:

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

今日のキーワード

潮力発電

潮の干満の差の大きい所で、満潮時に蓄えた海水を干潮時に放流し、水力発電と同じ原理でタービンを回す発電方式。潮汐ちょうせき発電。...

潮力発電の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android