改訂新版 世界大百科事典 「コノシロ」の意味・わかりやすい解説
コノシロ
gizzard shad
Clupanodon punctatus
ニシン目ニシン科の海産魚。関東では当歳魚をシンコ,15cm程度のものをコハダ,関西ではツナシと呼ぶ。背面は青藍色,腹部は銀白色である。腹面に1列の稜鱗がある。えらぶたの後ろに大きな黒斑があり,体側の中央部より背側のうろこにはそれぞれ黒点があり,縦走帯をなしている。背びれの最後の軟条が長くのびているのが大きな特徴である。朝鮮半島,日本,中国,ポリネシア,インドに分布し,日本では松島湾,佐渡が北限である。沿岸近くに生息し,定置網,底引網などで漁獲される。産卵期は4~5月で浮遊卵を産む。卵径は1.2~1.6mmで,夕方から夜半にかけて産卵される。プランクトン食性で,4歳までで全長30cmほどに成長するものもある。鰶,子の代などとも書かれ,種々の儀式,子どもの健康祈願,武士の切腹の際の供え物などに用いられ,そのためかあまり食用にはされなかった。関西では塩焼き,煮つけにするが,東京ではすしの材料に10cmほどのものをコハダと称して食べるのがふつうである。
執筆者:松下 克己
民俗
コノシロという名には子の代,すなわち幼児の身代りという意味があるらしい。平安時代に下野国司が長者の娘を望んだが,娘には別に思う人があるので長者はいつわって娘が死んだといい,棺にコノシロを入れて焼き,死者を火葬したように見せかけて国司の所望をことわった。ゆえに〈子の代〉であるという話をのせた書物があり,下野の室の八島の故事として《おくのほそ道》などもこれをひく。実は《物類称呼》にのせ,奥羽の北部や四国宇和地方の一部に伝承されるように,もとは幼児の死にこの魚を添えて葬れば子どもが生まれ代わってくるという俗信からきている。この魚はとくに生臭いので,西方浄土に死児の魂がいってしまわずに再来することを望んで,仏教のいましめに反してわざと生魚を添える風習を生じたものであろうと解される。この慣行が,その行為のすでに忘れられた京阪地方で,コノシロが子どもの身代りになるという物語の題材となったと考えられる。
執筆者:千葉 徳爾
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報