日本大百科全書(ニッポニカ) 「コノシロ」の意味・わかりやすい解説
コノシロ
このしろ / 鰶
鮗
dotted gizzard shad
[学] Clupanodon punctatus
硬骨魚綱ニシン目ニシン科に属する海水魚。本州中部地方以南の沿岸に分布し、海藻の繁茂した所にすむ。全長は28センチメートルに達し、体は著しく側扁(そくへん)し、腹縁に稜線(りょうせん)を備える。体の背部は青色、腹部は銀白色。背びれの最後軟条は糸状。肩部に明瞭(めいりょう)な1黒斑(こくはん)がある。内湾性の魚で、小形プランクトンを捕食し、4~6月に内湾で浮性卵を産む。刺網、巻網などで漁獲される。成長につれて呼び名が変わり、東京地方で幼魚をジャコまたはシンコ、10センチメートル前後のものをコハダ(西日本の一部ではツナシ)とよぶ。
[浅見忠彦]
コハダとよばれる中形のものは、すしの種として重用される。濃厚なうま味は、脂肪分が多いためであるが、一方でしつこさとなる。そのため、すし種(だね)にするときは酢でしめて用いる。また小骨が多いので身を細く切るか、ハモのように骨切りして使う。
酢じめしたものは、すしのほか、酢の物にも使用する。大きいものは煮つけ、塩焼き、から揚げに用いられる。正月料理用として保存が効く粟漬け(あわづけ)がある。頭、内臓を除き、軽く塩漬けにしたあと酢につけ、蒸した粟をまぶし、箱に詰めて軽く押す。広島地方では、このしろ汁にする。
民俗
この魚は焼くと死臭がするといって嫌われ、武士はこれを焼くのを「この城を焼く」といって避けた。また武士が切腹するとき、この魚を出したという。『秋田風俗問状答』に、出産の胞衣(えな)(胎児を包んだ膜と胎盤)はこの魚を添えて埋めるとある。岡山県では「ヘイシヨケ」という俗信があり、産褥(さんじょく)で死ぬのをオヤヘイシ、七つまでに子の死ぬのをコヘイシという。このヘイシ除(よ)けには、コノシロ2尾を土器に入れ、祈祷師(きとうし)に祈ってもらったあと、これを土中に埋めると子がよく育つという。
[大藤時彦]