クルマエビ
くるまえび / 車蝦
kuruma prawn
Japanese king prawn
[学] Penaeus japonicus
節足動物門甲殻綱十脚(じっきゃく)目クルマエビ科に属するエビ。日本ではエビ類中の最高級品。北海道以南の西太平洋に多産し、アフリカ東岸まで広く分布する。体長20センチメートル以下のものが多いが、大形個体は25センチメートルに達する。体長15センチメートル内外のものはマキ、10センチメートル以下のものはサイマキとよばれる。体色は淡褐色ないし青灰色の地に茶褐色か青褐色の幅広い縞(しま)が、頭胸甲では斜めに、腹部では横に走っている。腹部を曲げたときに、この横縞が車輪のようにみえるところからクルマエビの名がある。体長15センチメートル以上になると胸脚が黄色になり、尾節の末端部の青色が鮮やかになる。額角(がっかく)は上縁に9~10歯、下縁に1歯ある。頭胸甲の背隆起はあまり高くないが、その両側の溝は深く、ほぼ後縁に達している。尾節の側縁に3対の小さい棘(とげ)がある。
[武田正倫]
成体は潮間帯から水深100メートルまでの砂泥底に生息する。夜行性で、日中は砂中に潜っているが、夕刻から泳ぎ出て餌(えさ)をあさる。5月下旬から9月上旬にかけてが交尾期であり、産卵期でもある。雌は脱皮後の体がまだ柔らかいうちに交尾するが、生殖口には雄の分泌物が固まった交尾栓が形成される。交尾および産卵は水深15~20メートルで行われる。卵は0.2~0.3ミリメートルの球形で、青褐色の沈性卵である。雌は夜10時ごろから翌朝4時ごろまで泳ぎながら卵を放つ。抱卵数は40万~130万といわれ、体長15センチメートル内外の標準的な雌で3、4分間に約70万粒を放卵する。水温が27~29℃の場合、13~14時間でおよそ0.3ミリメートルのノープリウス幼生が孵化(ふか)する。35~36時間で6回脱皮して体長約0.8ミリメートルのゾエア幼生となり、5~12日間で3回脱皮して後期幼生のマスティゴプス幼生になる。体長2.7~3.1ミリメートルで、その後脱皮を重ねて成長し、体長1センチメートルほどになると砂に潜るようになる。翌年には性的に成熟して産卵し、そのあとに死ぬ。
[武田正倫]
クルマエビ科のエビは、世界各地で貴重な水産資源である。西太平洋からインド洋海域ではフトミゾエビP. latisulcatusやクマエビP. semisulcatusのほか、コウライエビP. chinensisやウシエビP. monodonなどがとくに重要で、大西洋ではホワイトシュリンプP. setiferusとピンクシュリンプP. duorarumおよびブラウンシュリンプP. azteusが最重要種である。
[武田正倫]
大形個体の蓄養は明治中期から行われていたが、これは、漁獲が夏から秋に限られ、季節によって価格が著しく異なることから考え出されたものである。しかし、安定した量を得るために、卵からかえして育てる養殖が望まれていた。1960年(昭和35)になって、幼生の大量育成の技術が確立され、人為的な完全養殖が行われるようになった。孵化後約1か月で体長2センチメートルほどになった稚エビを種(たね)エビにして養殖池に放し、雑魚や小エビ、アサリのむき身などを餌にして、20~30グラムに育てて出荷する。完全に陸上の施設での養殖が行われており、大量にしかも安定した量の供給が可能となった。近年は種苗を海に直接放して沿岸漁業の振興にも寄与している。
[武田正倫]
出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例
クルマエビ (車蝦)
Penaeus japonicus
クルマエビ科のエビで,水産上沿岸産甲殻類中の最重要種。てんぷら,すし種などに珍重される。体長25cmに達するが,ふつうは20cm(頭胸甲長7cm)以下である。マエビと呼ばれることもあり,体長5~6cmの幼エビはサイマキと呼ばれる。体色は一般に淡褐色ないし青灰色の地に茶褐色か青褐色の幅の広い縞模様が,頭胸甲では斜めに,腹部では横に走っている。腹部を曲げたときにこの縞模様が車輪のようになるところからクルマエビの名がある。額角は上縁に9~10本,下縁に1~2本のとげがある。頭胸甲の背面正中線とその両側には深い溝があり,頭胸甲の後縁まで達している。尾節には3対の小さなとげが側縁にある。
クルマエビは夜行性で,昼間は砂泥中に潜っているが,夜になると泳ぎ出る。交尾および産卵は5月下旬から9月上旬にかけて水深15~20mのところで行われる。卵の直径は0.2~0.3mmであるが,他のエビ類のように卵を腹肢につけることはなく,母エビは泳ぎながら海中に放出する。産卵数は体長20cmほどの個体で約70万粒といわれ,卵は海底に沈む。水温27~29℃で,13~14時間後にノープリウス幼生が孵化(ふか)し,35~36時間に6回脱皮してゾエア幼生となる。その体長は0.8~0.9mmで,その後5~12日間に3回脱皮してミシス幼生に変態する。ミシスは体長2.6~3.1mmで,6日間に3回脱皮して最小成体形となる。その体長は4.7~5mmである。産卵期の初期の群れでは7月下旬から8月下旬に頭胸甲長1~1.5cmに成長し,干潟に現れる。この群れは9月には3.5~4cm,10月には4~4.5cmに成長し,干潟を離れて湾内に,さらに冬季までに4.5~5cmになって湾外の沖合に移って越冬し,翌春に産卵する早期産卵群になる。一方,7~9月に発生する群れの稚エビは干潟で越冬し,翌春4~5月に頭胸甲長1.5~2cm,7月中旬に3.5cmに成長して湾内の深みに移動する。寿命はふつう1年で,産卵後に死ぬが,ごく少数のものが満2年近く生きると推定される。北海道南部からオーストラリア北部,インド洋まで広く分布し,Japanese tiger prawnとして親しまれている。
養殖
以前は8~10月ごろ漁獲されるものを種エビとして雑魚やアサリなどを餌として蓄養していたが,1960年になって幼生を大量に飼育する技術が確立され,すべて陸上施設だけで大量に養殖することが可能となった。“とる漁業”から“つくる漁業”への転換の成功例である。
執筆者:武田 正倫
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クルマエビ
Marsupenaeus japonicus; Japanese tiger shrimp; Kuruma prawn
軟甲綱十脚目クルマエビ科 Penaeidae。体長 25cmに達する。生時の体色は淡褐色ないし青灰色で,暗色の幅広い縞が,頭胸甲では斜めに,腹部では横に走っている。腹部を曲げるとこの縞模様が車輪のように見えるのでその名がある。水深 100mまでの砂泥底にすみ,夜間に餌を求めて活動する。北海道以南オーストラリア北部,インド洋からアフリカ東岸まで広く分布する。近年はスエズ運河を経て地中海に入り,各地で漁獲対象とされている。産卵期は 5月下旬~9月上旬。産卵数は 40万~120万粒で,卵は海中に産み出されるとすぐ海底に沈む。ノープリウスで孵化し,海中を漂いながら 4~5週間に 16~17回脱皮を繰り返し,体長 2cmぐらいの稚エビになる。1960年以来,養殖技術が確立され,今日では卵からの完全養殖が可能となった。稚エビに雑魚や小エビ,アサリ肉などの餌を与え,20~30gの大きさに育てて出荷する。てんぷらの材料として最高級品。体長 9~10cmの個体をマキ,5~6cmの小型個体をサイマキと呼ぶ。近年の研究により,クルマエビ科は細分された。Penaeus属はウシエビやクマエビに限定され,クルマエビだけにクルマエビ属 Marsupenaus が設定された。(→甲殻類,十脚類,節足動物,軟甲類)
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
クルマエビ
甲殻類クルマエビ科のエビ。体長20cmくらい。体色は淡褐色〜青灰色。腹部各節に濃紫褐色か茶褐色の横じまがあり,尾びれは青および黄でいろどられる。第1〜3胸脚ははさみ状。北海道南部〜オーストラリア北部,インド洋東部に分布し,水深100m以浅の砂泥底にすむ。打瀬網や手繰網で漁獲。1960年になって幼生を大量に飼育する技術が確立され,陸上施設だけで大量に養殖することが可能となった。てんぷら材料,すし種などに珍重される。
→関連項目イセエビ|エビ(蝦/海老)
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クルマエビ
[Penaeus japonicus].オオエビともいう.エビ目クルマエビ亜目クマルエビ属の食用のエビ.25cmにも達する.
出典 朝倉書店栄養・生化学辞典について 情報
世界大百科事典(旧版)内のクルマエビの言及
【移殖】より
…また,ホタテガイ,アサリ,ハマグリなどの二枚貝の移殖も古くから行われている。(5)クルマエビ 1965年以来,人工種苗の放流が瀬戸内海を中心に試みられてきたが,種苗の人工生産技術が完成し,大量の種苗が確保できるようになったため,各地で盛んに放流され,養殖も行われている。 なお,外国から移殖されたものも少なくない。…
【エビ(海老∥蝦)】より
…長尾類と呼ばれることも多いが,腹部がよく発達しているという意味で,腹部が曲がっている異尾類,すなわち[ヤドカリ]類と腹部が退化している短尾類,すなわち[カニ]類に対比していわれる言葉である。エビ類の体制は,体が[クルマエビ]類やコエビ類のように遊泳に適している側扁型,[イセエビ]類や[ザリガニ]類のように歩行に適している横扁型に大別される(図1)。したがって,エビ,ヤドカリ,カニ類を長尾,異尾,短尾亜目と分類するのとは別に,遊泳型のエビ類を遊泳亜目とし,歩行型のエビ類をヤドカリ,カニ類とまとめて歩行亜目とする分類法もある。…
【栽培漁業】より
…これらのため日本周辺の200カイリ内の資源を再開発ないしは増大させる必要が生じており,この面からも栽培漁業の推進に対する期待が大きくなっている。 一般に魚介類は1尾の親が産み出す卵・稚子の数はウナギ3000万粒,ブリ500万粒,マダイ50万粒,ヒラメ40万粒,クルマエビ40万粒のようにひじょうに多いが,自然界では産まれて1~2週間で他の魚介類に食害されたり,あるいは適当な餌料にめぐりあえないなどの原因で95%以上が減耗してしまい,生残率はきわめて低く,たくさんの卵・稚子を産み出すのは自然の摂理であるとされてきた。栽培漁業の基本点は,このように減耗の大きい卵・稚子期を,害敵のない好適な環境条件のもとで,食性に合った好適な餌料を十分に与えながら乳飲児から小学生くらいまで哺育してやり,これを適期に適地に他の魚の食害をうけないような保護管理の手段を講じて放流し,その後は海のもっている自然の生産力を利用して十分に成長させ,成魚になるのをまって漁獲しようとする考え方にある。…
【蓄養】より
…アワビも同様の趣旨の蓄養が行われる。クルマエビの養殖は,かつては成体に近い天然種苗に餌を与えて多少成長させる程度の半ば蓄養であったが,人工種苗生産が確立された結果,現在は完全養殖がされるようになった。ブリ(ハマチ)養殖も古くから行われていた短期蓄養から出発したものである。…
※「クルマエビ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」