日本大百科全書(ニッポニカ) 「前裸子植物」の意味・わかりやすい解説
前裸子植物
ぜんらししょくぶつ
progymnosperms
古生代デボン紀中期から後期に栄え、一部は石炭紀まで残ったシダ植物の絶滅群。原裸子植物ともいう。胞子繁殖をするが、二次肥大成長によって材を形成し、デボン紀後期には現在の針葉樹のような外観をもった大型木本も現れた。デボン紀の初めごろにトリメロフィトン類から派生したとみられる。二次成長する栄養器官の特徴は種子植物である裸子植物に似ているが、祖先である初期の維管束植物と同様に胞子繁殖を行うため、前裸子植物という名がつけられた。実際、裸子植物はデボン紀後期に前裸子植物の一つから分化したと考えられている。おもなものに、原始的特徴をもち、比較的小形で灌木(かんぼく)性のアネウロフィトン類Aneurophytesと、大形の木本を含むアルカエオプテリス類Archaeopteridsがある。前裸子植物の体制は、祖先であるトリメロフィトン類の特徴を残しており、茎と葉の分化は不十分で、とくにアネウロフィトン類では明瞭(めいりょう)な葉身もみられない。アルカエオプテリス類では、栄養器官の先端がくさび形の裂片状葉身を形成するようになり、さらにその裂片が分枝する軸上に集合して、羽状複葉のような体制をつくる。このような裂片は針葉樹の針葉に対応すると考えられ、羽状複葉はソテツのような大形の葉に対応するとみられるが、詳しい進化過程ははっきり示されてはいない。
アネウロフィトン類には、アネウロフィトンAneurophyton、レリミアRellimiaなどがある。アルカエオプテリス類でもっともよく知られているものは、北アメリカやヨーロッパのデボン紀後期から石炭紀前期の地層から産出するアルカエオプテリスArchaeopterisで、茎の直径1.5メートル、高さ20メートルもの大木となった。当初、現生のシダ類に似た、長さ1メートルにも及ぶ大形の2回羽状複葉がアルカエオプテリスとよばれていた。一方、同一の地層から出る大形の樹幹はカリキシロンCallixylonとよばれ、構造が現生の針葉樹に似ていたため、裸子植物の樹幹と考えられていた。しかし、1960年にアルカエオプテリスとカリキシロンが直接つながった化石が発見され、両者が同一の植物であることが初めて明らかにされて、前裸子植物という新しい分類群が提唱された。アルカエオプテリスは、3億7000万年前のデボン紀後期に、地球上で最初の森林の形成にあずかった植物群の一つで、森林の成立によって陸上の生態系は急速に多様化することとなった。最初の脊椎(せきつい)動物が上陸したのもこのころである。
[西田治文]
『岩槻邦男・馬渡峻輔監修、加藤雅啓編『バイオディバーシティ・シリーズ2 植物の多様性と系統』(1997・裳華房)』▽『西田治文著『植物のたどってきた道』(1998・日本放送出版協会)』▽『岩槻邦男・加藤雅啓編『多様性の植物学2 植物の系統』(2000・東京大学出版会)』