改訂新版 世界大百科事典 「力学的海面高度」の意味・わかりやすい解説
力学的海面高度 (りきがくてきかいめんこうど)
dynamic height of sea surface
海洋において,温度と塩分を測定してその分布から海流を推定する方法を力学計算という。力学計算によって同時に海面の起伏が推算できるが,こうして求めた海面を力学的海面高度と呼ぶ。海洋中の大規模(30km程度かそれ以上)な運動に関しては地衡流平衡がほぼ成り立っている。地衡流平衡とは地球の回転によるコリオリの力と水圧の勾配による力が釣り合っている運動のことで,以下のように表される。
ここでzは鉛直上向きにとった座標,x,yは平均海面と一致するジオイド上にとった直交座標である。またpは圧力,(u,v)は(x,y)方向の流速,ρは海水の密度,fは次式で表されるコリオリパラメーターである。
f=2Ωsinφ ……(3)
(φはいま考えている座標のある緯度,Ωは地球の回転角速度)。
海水の密度は温度と塩分で決まるから,観測により水温と塩分の分布が求まれば,各点における圧力pが(2)式をz方向に積分することにより計算できる。このpを使って(1)式から流速は,
となる。ここで(u*,v*)は基準水深z*における流速である。(u*,v*)は一般にはわからないが,海の深い所では流速がないと考え(これを無流面という),u*=v*=0と置けば,そのz*より上層における流速は(4)式によって計算できるわけである。とくに表層z=0における流速は近似的に,
で与えられる。ここでηはジオイド(z=0)からの海面のずれである。したがって(4)式により無流面から表層まで積分して求めた流速(u0,v0)は同時に,(5)式により海面の勾配を与えているので,海面起伏が推定できることになる。これが力学的海面高度である。
力学計算における無流面の仮定が正しいかどうかは昔から議論があり,とくに最近になって深海の流れが直接流速計で測られるようになって,海の底にも流れがあるという報告例が出されるに及んで,従来の力学計算はかなり誤差を含んでいるのではないかという意見も出ている。そこで現在は,人工衛星から高度計を用いて海面起伏を直接求めてから,(5)式を使って(u0,v0)を決め,その値を基準値にして(4)式によって(u*=u0,v*=v0,z*=z0とする)表層から下層に積分して,海の中のu,vを計算するという方法が注目を集めはじめている(海洋観測衛星)。
執筆者:宮田 元靖
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報