成人式ともよばれる。それまで子供として扱われていた個人が、一人前として社会から認められる儀礼で、通過儀礼のなかでももっとも重要かつ多彩な性格をもっている。女性の場合は成女式とよばれることもある。成年式は成熟祝いの場合と入社式(イニシエーション)の場合とを区別しておく必要がある。前者は個人中心で、家族的かつ公開的に行われるものをさし、後者は成人の年齢に達した男子(女子)の若者組、娘組、男子結社などへの集団的加入礼をいう。一般に男子の成年式は集団的に行われることが多く、女子の成女式は個人的・家族的である。成年式は男子では生理的成熟とかならずしも一致しないが、女子では初経(初潮)の時期と一致している。
成年式を通過することによって、個人は初めて一人前の成人としての権利を獲得し、義務を負うことになる。したがって、いずれの社会でも成年式はきわめて重視されており、これまでの生活からの別離と新しい身分の獲得が、「死と再生」のモチーフによって示されることが多い。また成年式は典型的な通過儀礼であるから、(1)これまでの身分からの分離期、(2)新しい身分を獲得するまでの過渡期、(3)新しい身分への統合期、という三つの段階からなっている。
西アフリカのメンデ人のポロとよばれる成年式(加入礼)では、学齢期の少年が一定数に達すると、少年たちは同族の長老によってブッシュの中につくられた学校へ連れられていく。少年の腹の上にニワトリの血が入った袋が巻き付けられ、学校の柵内(さくない)に投げ入れられるとき、槍(やり)で袋が突かれて血が流れる。少年たちは死んで霊界に入ったものとみなされるのである。分離の儀礼を意味している。学校にいる間、少年たちはメンデ人の倫理、道徳、儀礼、生活技術など、成人男子が知っておかねばならないあらゆる知識を学ぶ。学校での訓練は苦しいが、次々と宴が繰り広げられ、楽しい面もある。少年たちは割礼(かつれい)を受け、性教育も施される。この期間を過渡期と考えることができる。訓練を終わった少年たちは村へ帰されるが、名前が変わり、家族や知人に会っても知らないふりをする。「再生」を象徴しており統合期にあたる。
このように成年式には、それを受ける個人が、この儀礼を期して(1)社会の一人前の成員になること、(2)その能力を試すための一定の試練を受けること、(3)結婚が許されること、という三つの重要な側面をみてとることができる。
わが国の場合、成年式は一般に15歳から18歳までに行われていた。貴族社会では加冠(かかん)とか元服(げんぷく)とかよばれ、士族社会では烏帽子着(えぼしぎ)、農民の間では男は名替(ながえ)祝い、女の場合は鉄漿付(かねづけ)祝い、ユモジ祝いなどとよばれた。また、日本の伝統社会では、何をもって「一人前」と考えるかということについて一定の基準があり、田打ち、田植、草刈りなど、成人が1日にできる仕事の量が村によって定まっており、成年式では各人の能力が試された。
現在の「成人の日」(1月15日、2000年からは1月第2月曜日)の意義は、20歳をもって自動的に成人になったとし、法的な権利義務を遂行しうるということを、当人に認識させることであるが、国が一律に決めたことであり、本人の意志や努力とは関係がない。
[綾部恒雄]
『アルノルト・ファン・ヘネップ著、綾部恒雄・綾部裕子訳『通過儀礼』(1977・弘文堂)』
成年式とは,子どもから一人前のおとなへ移行する際に,その境界に設けられた文化的規定である。成人式ともいい,女性の場合は成女式と呼びわけることもある。成年式が一定の集団(たとえば若者組)への加入儀礼と重複している場合も多い。しかしここでは,特定の集団への新たな加入ではなく,一人前のおとなへ移行するという個人の地位の変更を強調する儀礼に限定して述べることにする。
一人前の条件は社会によってかなりの相違がみられる。一人前には身体的・生理的な意味での一人前と,社会・経済的な意味での一人前とがある。戦前の日本のムラ社会の場合をみると,ほぼ15歳から18歳で成年式を迎えることが多かった。若者たちはその日を期してムラの正式の一員になるのだが,そのためには,一人前であることを試す特定の〈資格試験〉が行われていた。具体的には,当人が農作業や山林労働や漁労活動について,一人前の労働能力の標準に達しているかどうかということである。たとえば田打ち・田植・草刈りなどについて,成人が1日でなすべき仕事の量がムラによってきまっていた。一人前の仕事ができることを示した若者は,ここで初めて共同労働や利益分配についても一人前に数えられ,神事への参加資格ができ,ムラの政治的会合への出席が義務づけられると同時に,結婚の資格を手にすることができた。アメリカ・インディアンのなかには,成人の仲間入りをする条件として,灰色クマを一人で倒し,その巨大なつめを持ち帰ることを若者に課した部族もあった。このように伝統的社会においては,個人の生理的成熟と社会的資格の獲得はほぼ同時的であるが,現代の高度産業化社会では,この両者の間にずれが生じており,身体は一人前になっていながら社会経済的にはひとり立ちできないという不均衡が,青年の間に不安感を増大させる一因となっている。
→通過儀礼
執筆者:綾部 恒雄
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…女子の場合は,男子の基準をやや下回るが,機織では1日に1反という例もある。(4)成年式を経たもの。男子は元服,女子は初潮祝,また鉄漿(かね)付け祝などの成年式を済ますと一人前と認められた。…
…比較的小人数に対して同時に行われる場合が多く,秘儀性をともなうことが最も重要な特徴である。したがって,成年(人)式または成熟祝puberty ritualと加入儀礼とは区別する必要がある。前者は,人の一生における重要なできごととしての思春期を強調はするが,明確な社会集団への加入をもたらすことはない。…
…たとえば白は死者の色,死の色としておおむね位置づけられている。白は数ある通過儀礼のなかで最大の儀礼である成年式に,最も効果的に使用される。年若い候補者たちはまず儀礼的に死ななければならない。…
…身体装飾は身分や所属をあらわす指標であり,敵を威嚇する武器でもある。たとえばオーストラリアのアボリジニーは,トーテム儀礼や成年式,またタブーを解くときなどさまざまな機会に塗色する。南アメリカのインディアン諸族のボディ・ペインティングはその華麗大胆さで知られているが,ブラジルのワウラ族は戦争ゲームを行うとき,頭頂からつま先まで,白,黒,赤の顔料を用いて大胆で生き生きとした模様を描く。…
…たとえばメラネシアやアフリカでは,近親者を失った女性が,そのたびごとに指を1本ずつ切り落としていく例が見られる。このほか哀悼の意を示すため耳が,また供犠として指が切断されることもあり,アフリカなどでは成年式儀礼において男性の乳首の切断が行われる。(4)身体狭窄(きようさく) 緊縛によって,頭,首,腕,腰,脚,足などが人工的に狭窄され,体形が変形される。…
…一方,男15歳,女13歳を婚姻許可年齢とする規定もあり,後の男女の成年儀礼の年齢とも重なるが,この規定自体は唐制を模倣した条文であった。むしろ古代の成年は一定の年齢の幅の中で,身体的・精神的条件の発達に応じて行われる成年式を経て,成人として社会から認定されていたと考えられる。【勝浦 令子】 子どもから大人への移行を社会的に公認する儀礼である成年(成人)式は,時代により,身分・階級により一定のしきたりがあった。…
…第2段階の過渡儀礼は,当事者がすでにこれまでの状態でなく,しかしまだ新たな状態にも入っていない,中間的で無限定な状態にあることを示し,来るべき生活に対処するための学習や修業に努めることが多い。オーストラリアのカラジェリ族の成年式における過渡儀礼では,儀礼の間は無言で,身振りによってすべてを表現する。無言のうちに,過渡的で無限定の状態が示されている。…
…次いで部民制の起源などを扱った〈垂仁記〉の後に〈景行記〉の倭建(やまとたける)命(日本武尊)の物語が記されている。景行天皇と皇子ヤマトタケルとの劇的な対立を発端とするこの物語は通過儀礼の試練が戦士の物語として表現されたもので,成年式を終えた若き勇者が荒らぶる自然の神々やまつろわぬ〈エミシ〉との運命的な闘いを繰り広げる,古代英雄の遍歴の物語でもあった。そして中巻の終末近くには神功(じんぐう)皇后の〈新羅征討〉の物語が記される。…
…社会結合の契機には血縁や地縁のほかに,基本的なものとして〈性と年齢〉があるが,部族社会ではしばしば,これが血縁や地縁をたち切って強固な年齢集団が形成される。民族学者シュルツHeinrich Schurtzが《年齢階梯制と男子結社》(1902)を著してこのことを大きくとりあげたが,彼は思春期における男子の女性および家族・親族からの隔離が,部族的成年式(割礼を伴うことが多い)で強調されることに注目した。反面,女子では初潮の時期が一様ではないので,成女式は男子のように部族的規模で一定時期に行われず,また妊娠・出産・育児のため家族・親族や近隣などのせまい血縁・地縁に拘束されて,年齢集団ができにくいとした。…
…歯を削る尖歯や研歯とともに,歯牙変工の一技法であり,広くは身体変工の一種とも考えられる。抜歯は成年式儀礼の一部として行われるのが一般的である。すべての歯が抜歯されるわけではなく,前歯の中の特定の歯が対象となり,各民族ごとにどの歯を抜くかが伝統的に定められている。…
…また,描かれる文様も民族ごとに異なっており,一般に,抽象的,幾何学的なものが多い。 瘢痕文身は成年式儀礼の一部として行われるのが一般的である。切込みや焼灼に伴う苦痛に耐えて初めて,社会の正式な成員として承認される。…
※「成年式」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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