労使協調主義(読み)ろうしきょうちょうしゅぎ(英語表記)class collaboration,industrial copartnership

日本大百科全書(ニッポニカ) 「労使協調主義」の意味・わかりやすい解説

労使協調主義
ろうしきょうちょうしゅぎ
class collaboration,industrial copartnership

資本家階級と労働者階級の基本的対立は存在せず、労働者と使用者(資本家)が協調・協力し生産性向上を図ることにより、利潤が増大し、よって、労働者の賃金・労働条件も向上し、労資が共存共栄すると説く思想行動様式。この思想は、資本主義経済において資本家階級と労働者階級の対立が不可避であると考える階級的闘争史観とまっこうから対立する考え方である。

 日本では、第二次世界大戦後、国家による労働運動労働組合運動への厳しい弾圧・規制が図られ、そこで労使協調主義への道が開かれることとなった。すなわち、日本の大企業では、企業別組合(企業内組合)によって、労働組合と企業が、「運命共同体」として結束を深めるとともに、制度的には労働者が企業への忠誠心を高める労務管理政策や国の乏しい社会福祉を充当する手厚い企業内福利厚生制度がつくられ、労働者が企業へ依存心を強める形で労使協調が図られてきた。そして、日本の労使協調主義路線による労働組合運動の潮流の一帰結が、1987年(昭和62)11月に労働戦線統一の名のもとに結成された全日本民間労働組合連合会であり、さらに89年(平成1)11月に結成された日本労働組合総連合会連合)であった。

 しかし、1990年代以降、バブル経済崩壊不況継続規制緩和等によって、拡大前提とした「日本の労使協調路線」は揺らぎつつある。その原因としては、持株会社制度などの企業組織改革、年俸制をはじめとした人的資源管理の導入、労使関係の個別化などがあげられる。

[守屋貴司]

『木元進一郎編著『激動期の日本労務管理』(1991・高速印刷出版事業部)』『牧野富夫監修『「日本的労使関係」変遷と労資関係』(1998・新日本出版社)』

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改訂新版 世界大百科事典 「労使協調主義」の意味・わかりやすい解説

労使協調主義 (ろうしきょうちょうしゅぎ)

資本家と労働者の利害が本質的に一致するという理念にもとづいて,労使間の紛争を排除することを重視する考え方。特定の思想や運動に結びついたものではなく,使用者の政策や労働運動についてこのような傾向を帯びるものを性格づける用語として使われる。

 労使協調主義は,階級間の対立は不可避的ではなく,相互理解によって解消できるものであり,資本家と労働者は協力して経済活動を促進し,その成果を理性的に配分することによって最大の利益を共有することができる,という認識を基盤にしている。私有財産制にもとづく資本主義経済のメカニズムでは資本家と労働者とはその利害が必然的に衝突する,と理解する階級闘争史観に対立している。資本と労働の対立関係は古典派経済学者のD.リカードによって定式化されたが,労働運動が組織的に定着するに及んで,古典派末期のJ.S.ミルは労働者階級の自学と教育振興による地位改善をはかり,資本家の産業支配権を漸進的に労働者階級に移譲する必要があると説いた。A.マーシャルは経済組織を歴史的に発展・進化するものと考え,労使が妥協して資本主義経済が生み出す問題を合理的に解決することの意義を強調した。マルクス経済学以外の近代経済学はこの視点を継承している。

 後発資本主義国であったドイツや日本では,資本家も労働者も国家が推進する経済発展政策に従属すべきであるとする考え方が強く,労働運動に対する制約が行われると同時に,資本の利益追求にも国家的見地からの規制が加えられ,労使間の対立は国家によって調整すべきものとされた。国家の制度として労使紛争を予防・調停する政策がとられたが,ファシズムの台頭によって労使協調が強制される方向に進んだ。アメリカでは,大企業の力が強かったため,企業ごとにつくられた労働者福祉政策によって労働運動を未然に予防する方策が行われ,アメリカン・プランと呼ばれた。日本では,第2次大戦前は労働運動に対する国家的規制が強く,労働者の主体的行動が厳しく抑圧されたため,労使協調は使用者の恩恵政策として進められた。企業内福利施設(企業福祉)や忠誠度を重視する労務管理が整備され,労働者の企業への定着を強める形で労使協調の意識が育成された。労働組合が組織されてからもこの政策は踏襲され,労働組合側も企業別組合という組織形態をとり,企業の繁栄を達成しながらその分配を大きくする運動形態をとっている。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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