企業福祉(読み)きぎょうふくし

改訂新版 世界大百科事典 「企業福祉」の意味・わかりやすい解説

企業福祉 (きぎょうふくし)

労働者の生活安定のための福祉諸施策のうち,主として企業の費用負担と管理で運営される福利厚生施設や各種福祉活動をいう。その領域は,住宅,医療・保健,給食,物資供給,理美容,託児所,慶弔共済貸付金,退職給付,社会保険付加金,教養・娯楽・体育・レクリエーションなど多方面にわたる。これらは,国家の公的福祉政策や労働組合および協同組合による労働者福祉事業(労働者福祉運動)とは違って,企業が主体であるところから,労働者の定着,能率の向上,労使関係の安定と企業内包摂などの労務管理的機能が前面に出る。また賃金などの本来的労働給付と異なる任意的施策のため,その動向や存廃は,労働者の欲求の推移を反映しながら,企業業績の影響を強く受ける。そして大企業と中小企業間には,質,量いずれにおいても大なき格差がある。

 日本では資本主義化の過程に規定され,欧米諸国に比べ総労働費用のうち福利費の占める割合が低く,総福利費のうち法定外福利費の比率が高いほか,企業内福祉も欧米諸国のフリンジベネフィットとはその性格を異にする。戦前の日本では,賃金と生活扶助的な各種企業福祉給付が渾然一体化して,恩恵的な利潤分配制度と考えられた。一方,大企業の企業内福祉的対策を国家が吸引する形で公的福祉政策が形成されてきたため,今日なお企業福祉は労働者の生活諸条件の根幹をなしている。企業福祉は,終身雇用制年功序列型賃金など日本特有の雇用・労働慣行と重なりながら,日本の伝統的な家父長的・経営家族主義的労務管理制度の一翼を担ってきたのである。

 だが,もともと自助を原則とする資本主義社会にあって,まず展開された共済組合などの相互自助活動にはおのずから限界があり,欧米ではこれを補完するものとして国家の公的福祉政策がはじまったという経緯をもつ。その上に立って,第2次大戦中の賃金統制のもとで,労働者が低い生活条件を補うため企業から獲得したものがフリンジ・ベネフィットであり,それは本来の賃金に対するフリンジ(ふさ飾り)=付加給付を意味していた。フリンジ・ベネフィットはその多くが労働組合の手で運営され,横断的な労働協約のなかに位置づけられる。しかも若干の福利施設のほかは,その大部分が,休日・休暇手当やボーナスなどの賃金補足的諸手当相当分か,企業年金など私保険に対する使用者の保険料負担や社会保険への補助的上積み給付を主要な内容とし,それらは賃金的給付もしくは社会保障の補足費用の性格を有し,一種の社会的賃金として団体交渉の対象ともされた。

 日本でも第2次大戦後は各種社会保障制度の整備や,労働組合運動と団体交渉体制の進展によって大きく変容し,さらに賃金の上昇とそれに伴う法定福利費=社会保険料の企業負担の増大につれ,総労務費の一部としてとらえられはじめた。そして公的福祉制度との相互依存,労働者資金を利用してのストック形成への保証・援助や別会社化・下請化の試みなどと絡みながら,労働者の福祉要求の変化に応じるべく,労働者参加による新たな企業共同体意識醸成の方向へ再編成が進められる。また住民運動対策のために,施設の市民への開放,あるいは社会保障制度のゆきづまりのなかで,調整年金,財形制度の導入なども試みられている。
社会福祉
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「企業福祉」の意味・わかりやすい解説

企業福祉
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