労働力の担い手である人間の、おもに労働市場を媒介にした地域間、産業間、職業間などの移動のことで、労働力移動ともいう。就労の機会を求める国境を越えた人の移動(国際労働移動)も労働移動の一種である。労働移動が可能になるためには、その前提として職業選択の自由や居住・移転の自由が保障されていなければならない。労働移動を基本的に規定しているのは資本の蓄積法則であるが、労働力の移動には種々の制約条件があるため、国家政策の介入を必要とすることがある。資本主義の発展に伴って顕著に現れるのが、農村から都市へ、農業から工業への労働移動である。これは農民の賃労働者化、農村の潜在的失業者の排出の過程でもある。
日本では第二次世界大戦後の高度成長期にこの過程が急速に進んだ。1960年(昭和35)から1975年にかけて、農業専業従事者は1310万人から656万人にまで減少したのに対し、労働者数は2224万人から3444万人に増加した。このなかには農家の雇用兼業従事者の増加(同期間に411万人から732万人へ)も含まれている。第一次産業から第二次・第三次産業へ、また石炭・繊維部門などの斜陽産業から重化学工業部門に代表される成長産業への労働移動は、地域間移動を伴い、太平洋ベルト地帯へ労働力が集中し、過疎・過密問題、都市問題を引き起こした。労働移動の阻害条件を取り除き、この移動を促進するために、政府は住宅対策、職業訓練、広域職業紹介など種々の労働力流動化政策を講じた。
産業構造の再編過程は技術革新を基礎に労働過程を変容させたが、これに対する適応力に富む新規学卒者を中心とする若年労働者が、長い勤続期間に裏打ちされた熟練工にかわって大企業に集中した。この反面で中高年労働者は大企業から中小企業へ下向移動する傾向をみせた。かつて大企業男子労働者にみられた終身雇用制は、1970年代後半以降、低成長期に移行するや、しだいに動揺の度を増し、彼らの下向移動は顕著になった。
さらに非農林業自営業者と労働者との間の労働移動も無視できない。経営難を理由に前者から後者へ賃労働者化する動きとともに、後者から前者へ「脱サラリーマン化」する方向も同時に進行した。総務省「労働力調査」によると、非農林業自営業者層は農民とは対照的に、1965年から1980年にかけて545万人から698万人へと150万人以上も増加した。その後、大型スーパーマーケットなど大規模小売店舗の進出などの影響もあって自営業者は徐々に減少した(2009年時点、491万人)。
1980年代末のバブル好況期に一時的に労働力不足が顕著になったこと、および円高が進み日本で働く経済的メリットが大きくなったことを背景に、アジア諸国やブラジル、ペルーなどから日本を目ざす外国人労働者の労働移動が活発化した。1990年代に入って日本が長期不況に陥ったため、この動きは減少傾向にあるとはいえ、依然として続いている。
1990年代後半から今日にかけて、派遣労働や業務請負などの人材ビジネス業者を介して、求人機会の少ない北海道、東北、九州、沖縄などから関東、東海、近畿など生産拠点のある地域に向けて移動する派遣労働者や請負労働者が増加している。労働移動の新たなタイプである。
[伍賀一道]
『労働省労働統計調査部雇用統計課編『労働移動――戦後の推移と現状』(1968・大蔵省印刷局)』▽『石田英夫・佐野陽子・井関利明編『労働移動の研究』(1978・総合労働研究所)』▽『森田桐郎編著『国際労働移動と外国人労働者』(1994・同文舘出版)』
労働市場における労働力の企業間,産業間,職業間,地域間などの動きをいう。労働移動は就職,配転,転勤,転職,引退に伴っておこるものである。しかし,同一事業所内での職場の転換を意味する配転については資料が得られないので,配転を除く他の4項目に伴う労働移動について述べる。入職者数,離職者数を在籍労働者数で割ったものをそれぞれ入職率,離職率といい,両者の差が雇用の増減率に当たるわけだが,その差は入職率や離職率に比べて著しく小さく,1%前後の雇用変動は実にその10~30倍もの労働移動を伴っている。また,高度成長期と低成長期を比べると,入職率の高い高度成長期には離職率もまた高い。これは求人の旺盛な高度成長期には就業機会が多く,これに誘発されて有利な職を求める自発的な転職が多くなり,これがさらに求人を高める関係にあるからである。入職率,離職率とも女子は男子に比べて著しく高く,年齢階層別にみても定年後の55歳以上の層を別として他はどの年齢層でも女子は男子を大きく上回っている。男子は就職当初は職業選択のための転職も高率だが,やがて定着し,定年転職を経て最終的に引退するのを常としているので,入職率,離職率とも年齢に関してU字形を描くのに対し,女子では就職当初の高い転職に加えて,結婚や出産を機に一度は引退するものの,その一部は育児期を経過すると再就職するので,入職率,離職率とも年齢の若い層ほど高まる傾向があるからである。
執筆者:梅村 又次
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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