勃起障害(読み)ボッキショウガイ

デジタル大辞泉 「勃起障害」の意味・読み・例文・類語

ぼっき‐しょうがい〔‐シヤウガイ〕【勃起障害】

勃起不全

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

EBM 正しい治療がわかる本 「勃起障害」の解説

勃起障害(ED)

どんな病気でしょうか?

●おもな症状と経過
 勃起(ぼっき)が弱い、あるいは勃起を維持できないため満足な性交ができない状態を勃起障害(ED)といいます。以前、インポテンスという言葉が使われていましたが、この言葉は本来、勃起だけでなく、性欲、性交、射精、オーガズムなど性交渉にかかわる幅広い要素のどれか一つ以上に問題のある場合を指していました。現在では、こうした場合、インポテンスという言葉を使わず、性機能障害と呼んでいます。
 勃起障害は性機能障害のなかの一つという位置付けです。性欲はあるのに勃起に問題がある場合には勃起障害として治療の対象になります。

●病気の原因や症状がおこってくるしくみ
 勃起は、性的な刺激によって自律神経が作動し、血液が陰茎海綿体(いんけいかいめんたい)と呼ばれるスポンジのような組織に流れ込むことによっておこります。このときに、なんらかの原因で十分な血液が流れ込まないと勃起がおこりません。
 EDの原因には機能性と器質性と混合性があります。機能性勃起障害は心因性勃起障害とも呼ばれ、精神的要因やパートナーとの関係によって生じるもので、これらの場合、自慰は可能なことが多く、睡眠中に自然におこる夜間勃起なども正常です。
 器質性勃起障害には、陰茎に関係する血管に異常のある血管因性のもの、脳神経や末梢神経(まっしょうしんけい)に障害のある神経因性のもの、下垂体(かすいたい)や性腺(せいせん)からのホルモン分泌に異常がある内分泌(ないぶんぴつ)因性のものなどがあります。
 混合性は言葉の通り機能性と器質性の両者の原因が含まれる状態をいいます。

●病気の特徴
 40歳代後半で20パーセント、60歳代以降では半数を超える人がこの病気で悩んでいるといわれています。また、糖尿病高血圧動脈硬化脂質代謝異常などの生活習慣病の合併症としても知られ、これらの生活習慣病の増加にともなってEDも急速に増加しています


よく行われている治療とケアをEBMでチェック

[治療とケア]ホスホジエステラーゼ5(PDE5)阻害薬を用いる
[評価]☆☆☆☆☆
[評価のポイント] 現在わが国ではバイアグラ(シルデナフィルクエン酸塩)、レビトラ(バルデナフィル塩酸塩水和物)、シアリス(タダラフィル)の3剤が処方可能で、いずれも国内外で非常に信頼性の高い臨床研究によって、効果が確認されています。ただし、副作用として、頭痛、ほてり、消化不良、視覚異常などがおこることがあります。(1)

[治療とケア]男性ホルモンテストステロン補充療法
[評価]☆☆☆☆☆
[評価のポイント] 男性ホルモン(テストステロン)が低値で血管性の勃起障害には有効な治療と考えられており、非常に信頼性の高い臨床研究で、その効果が確認されています。筋肉注射が一般的です。(2)

[治療とケア]陰圧式勃起補助具を用いる
[評価]☆☆☆
[評価のポイント] プラスチック製の筒のなかに陰茎を挿入し、ポンプを使って筒内を陰圧にする補助具を使用したとき、性交可能な勃起状態は90パーセントで達成できますが、満足度は27~94パーセントとばらつきがあります。PDE5阻害薬単独無効例において併用治療が有効である(有効率70パーセント)という報告もあります。抗凝固療法中や出血素因のある場合には慎重に使用すべきとされています。(3)

[治療とケア]血管拡張薬を陰茎海綿体に注射する(陰茎海綿体注射)
[評価]☆☆☆
[評価のポイント] 海外ではプロスタグランジンなどの血管拡張薬を用い、約70パーセントの患者さんに効果を認めたとの臨床研究報告があります。
 現在日本では未承認であり、自己注射は臨床試験として行われています。(4)

[治療とケア]プロステーシス挿入手術を行う
[評価]☆☆
[評価のポイント] プロステーシス挿入手術とは、陰茎海綿体のなかにプロステーシスというシリコンの棒を手術で入れて、持続的な勃起を可能にする方法です。PDE5阻害薬、男性ホルモン補充療法、勃起補助具などで効果がない男性に対して考慮すべき治療法として、専門家の意見や経験から支持されています。現在日本では手術自体に保険適用がなく、高額であることから、本手術の経験豊富な施設・医師のもとで、十分な説明を受けたうえで行われるべきです。

[治療とケア]精神療法
[評価]☆☆
[評価のポイント] 一般的に精神療法は時間がかかり、有効性がさまざまであることが指摘されています。明らかな器質的原因が見当たらず、最初の性交機会から勃起障害である場合や、神経や血管などの障害を思わせる病歴がないにもかかわらずPDE5阻害薬が無効である場合、性的虐待や性的外傷体験が本人やパートナーにある場合、うつ症状などがある場合には、精神科や心療内科の受診が勧められます。(5)


よく使われている薬をEBMでチェック

勃起不全治療薬
[薬用途]ホスホジエステラーゼ5(PDE5)阻害薬
[薬名]バイアグラ(シルデナフィルクエン酸塩)(1)
[評価]☆☆☆☆☆
[薬名]レビトラ(バルデナフィル塩酸塩水和物)(1)
[評価]☆☆☆☆☆
[薬名]シアリス(タダラフィル)(1)
[評価]☆☆☆☆☆
[評価のポイント] 非常に信頼性の高い臨床研究によって効果が確認されています。


[薬用途]男性ホルモン薬(テストステロン)
[薬名]エナルモン(テストステロンプロピオン酸エステル)(2)
[評価]☆☆☆☆☆
[薬名]エナルモンデポー/テスチノンデポー(テストステロンエナント酸エステル)(2)
[評価]☆☆☆☆☆
[評価のポイント] 男性ホルモン(テストステロン)が低値で血管性の勃起障害には有効な治療と考えられており、非常に信頼性の高い臨床研究で、その効果が確認されています。筋肉注射が一般的です。


総合的に見て現在もっとも確かな治療法
PDE5阻害薬が第一選択
 EDの原因には機能性、器質性、混合性があるので、まず原因を明らかにすることが大切です。
 実際は、効果の確実性、安全性、患者さんと医療者双方への負担のいずれを考えても、PDE5阻害薬の服用がほとんどのケースでの第一選択薬となります。(5)

心臓病の人は服用上の注意を厳守
 PDE5阻害薬の使用に際しては、狭心症心筋梗塞といった病気のある人は、硝酸薬との併用で顕著な血圧低下をもたらすため、併用禁忌となっています。医師と相談のうえ、服用上の注意を厳格に守る必要があります。

(1)Tsertsvadze A, Fink HA, Yazdi F, et al. Oral phosphodiesterase-5 inhibitors and hormonal treatments for erectile dysfunction: a systemic review and meta-analysis. Ann Intern Med. 2009; 151: 650.
(2)Isidori AM, Giannetta E, Gianfrilli D, et al. Effects of testosterone on sexual function in men: results of a meta-analysis. Clin Endocrinol. 2005;63:381-394.
(3)Levine LA, Dimitriou RJ. Vacuum constriction and external erection devices in erectile dysfunction. Urol Clin North Am. 2001;28:335-341.
(4)Porst H. The rationale for prostaglandin E1 in erectile failure: a survey of worldwide experience. J Urol. 1996;155:802-815.
(5)日本性機能学会ED診療ガイドライン2012年版作成委員会(編). ED診療ガイドライン2012年版. リッチヒルメディカル. 2012.

出典 法研「EBM 正しい治療がわかる本」EBM 正しい治療がわかる本について 情報

食の医学館 「勃起障害」の解説

ぼっきしょうがい【勃起障害】

《どんな病気か?》


〈心因性のものは若い人に増加傾向あり〉
 勃起障害(ED)とは、性交に十分な勃起(ぼっき)が起こらず、満足な性交が行えない状態です。日本性機能学会によれば、「性欲、勃起、性交、射精、オーガズムのいずれかが欠如、または不十分なもの」と定義されています。
 原因は、心因性障害と器質性障害とに大別されます。
 前者は、体のどこにも障害のないものをさし、後者は、陰茎(いんけい)そのものの障害のほか、神経や血管の障害、内分泌(ないぶんぴつ)の病気などのあるものをさします。
 性交時には勃起しなくても、自慰(じい)で射精(しゃせい)ができたり、いわゆる「朝立ち」が十分にある場合は心因性障害です。勃起障害の大部分はこのタイプで、最近、若い人に増加傾向がみられます。
 また、加齢や糖尿病(とうにょうびょう)によるものなど、器質性障害と心因性障害とをあわせもつケースもあります。

《関連する食品》


〈亜鉛の滋養強壮効果に期待〉
○栄養成分としての働きから
 性的能力の低下に効果的といわれるのは亜鉛(あえん)です。亜鉛は「セックス・ミネラル」とも呼ばれ、不足すると生殖(せいしょく)能力が衰えて妊娠しにくくなるといわれています。
 男性の前立腺(ぜんりつせん)にも大量に存在しており、性ホルモンの合成にかかわって、精子(せいし)づくりを活発にする役割をになっています。
 亜鉛を多く含む食品はカキ、牛もも肉、レバー、ウナギなどです。なかでもカキに含まれる亜鉛量は格段に多く、100g中13.2mgと推奨量(13mg/日)を上回るほどです。
 昔から「精がつく」といわれている食べものには、ヌルヌルした食品が多いのですが、ヤマノイモ、オクラ、ナメコ、ウナギ、納豆などのぬめりのもとはムコ多糖体です。
〈心身を健康にするビタミンB群やE、グルタミン酸も有効〉
 勃起障害には、元気な体をつくると同時に、精神状態を安定させる作用がある、ビタミンB群も有効です。
 ビタミンB群は、協力しあってエネルギーの供給や老廃物の代謝(たいしゃ)にかかわるため、どれか1つを単独でとるより、まんべんなく摂取したほうが効果的です。
 B群全般を含む食品には、玄米(げんまい)や小麦胚芽(こむぎはいが)、レバー、牛乳、青背の魚などがあります。
 老化防止のビタミンとして知られるビタミンEには、性ホルモンの分泌(ぶんぴつ)をうながし、生殖機能の衰えを防ぐ働きもあります。
 ビタミンEはアーモンドなどのナッツ類や、ウナギ、たらこ、ブロッコリー、青菜やカボチャなどに多く含まれています。
 また、アミノ酸の一種であるアルギニンは、精子数を増加させる作用があります。アルギニンは、魚類の白子に多く含まれています。
 これらの食品を十分にとり、ゆっくり休養をとって、あまり気にしないようにすることがED改善の早道です。

出典 小学館食の医学館について 情報

知恵蔵 「勃起障害」の解説

勃起障害

性交時に十分な勃起が得られない、あるいは十分な勃起が維持できないため、満足な性交が行えない状態。40〜70歳の男性の半数以上が勃起障害になっていると考えられている。機能性と器質性に分類されるが、大部分は機能性である。機能性勃起障害の原因としては、加齢や精神的ストレスがある。それ以外に、高血圧症、高脂血症、糖尿病などのいわゆる生活習慣病も関係している。治療としては、生活習慣病が関連している場合は、まずこれらの治療を行う。また、内服薬として、クエン酸シルデナフィル(商品名「バイアグラ」)や塩酸バルデナフィル水和物(商品名「レビトラ錠」)を投与する。心因性の場合は、カウンセリングを行う。

(今西二郎 京都府立医科大学大学院教授 / 2007年)

出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報

六訂版 家庭医学大全科 「勃起障害」の解説

勃起障害
ぼっきしょうがい
Erectile dysfunction
(こころの病気)

 勃起力(硬さ)と持続力に障害がある状態です。原因は、心因性のほかに血管性、神経性、内分泌性の勃起障害があり、さらに薬物、アルコール、たばこなどによる外因性勃起障害もみられます。

 心因性のなかで多いのは、「今夜はうまくいくだろうか」という予期不安です。失敗が繰り返されることで、性交場面になるとこの不安が毎回同じように出現し、条件反射的に勃起を損なってしまうタイプです。

 治療法には、大きく分けて①心理療法、②行動療法、③薬物療法、④外科的療法があります。

出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

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