ヘッケル(読み)へっける(英語表記)Erich Heckel

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ヘッケル」の意味・わかりやすい解説

ヘッケル(Ernst Heinrich Haeckel)
へっける
Ernst Heinrich Haeckel
(1834―1919)

ドイツの動物学者。ウュルツブルク大学でケリカーベルリン大学でJ・P・ミュラーに学び、とくにミュラーの影響を受けて海産動物の研究に従事した。イエナ大学動物学教授(1865~1909)となり、またカナリア諸島、紅海、セイロン島ジャワ島に採集研究旅行を行った。主として海産無脊椎(むせきつい)動物に関する形態学的、系統学的、および発生学的研究から、「個体発生は系統発生の短縮された、かつ急速な反覆である」とする有名な「生物発生の根本法則」をたてた。この法則はその後長く多くの生物学者に大きな影響を与え、この法則に頼って生物系統を探究しようという努力がなされたが、のちには批判的な意見が多く現れた。ヘッケルは、後生動物は単細胞生物の群体に陥入が生じて腔腸(こうちょう)動物に進化したという腸祖動物説を唱えた。C・R・ダーウィン進化論が発表されるとただちにこれを受容し、その普及に力を尽くしたが、ダーウィン学説を極端な形で推し進めたために、超ダーウィン主義とよばれた。さらに生態学を学問として確立することにも貢献した。

 ヘッケルの哲学的立場は一般には唯物論的一元論であるといわれるが、観念論的自然哲学の要素も多く、複雑である。それにもかかわらず、彼の思想は当時の生物学界、思想界に多大の影響を与えた。主著に『一般形態学』(1866)、『自然創造史』(1868)、『人類の発生』(1874)などがある。

[八杉貞雄]


ヘッケル(Erich Heckel)
へっける
Erich Heckel
(1883―1970)

ドイツの画家、版画家。ザクセンのデーベルンに生まれ、ドレスデンで建築を学ぶが、同学のキルヒナーシュミット・ロットルフとともに1905年「ブリュッケ」(橋派)を創立し、表現主義絵画の推進者となる。09年ローマに滞在後は主としてベルリンに住み、強烈な色彩と太い輪郭線による求心的な画面構成によって、サーカスの人々や自然の中の青年像などを描く。また同様な手法による内面表出を木版および石版画に託した。ナチスによって退廃芸術家の烙印(らくいん)を押され、44年以降ボーデン湖畔ヘンメンホーフェンに住み同地で没した。晩年は穏やかな風景と人物を描いた。遺作はベルリンのブリュッケ美術館にある。

[野村太郎]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ヘッケル」の意味・わかりやすい解説

ヘッケル
Haeckel, Ernst (Heinrich Philipp August)

[生]1834.2.16. ポツダム
[没]1919.8.9. イェナ
ドイツの生物学者。父は行政官。ウュルツブルク,ベルリン両大学で医学を学ぶ。ベルリン大学で当時教授であった J.ミュラーの影響を受け,海産動物の研究に関心をもつ。 1861年,イェナ大学より動物学の学位を取得,同年員外教授,65年より正教授。 C.ダーウィンの『種の起原』が出版されると,それを支持し,進化論の普及・啓蒙に努めた。彼は自然界全体を一元的に説明することを志し,そのための基礎理論としての役割を進化論に求めた。また無生物界から生物界への連続的な移行を想定し,両界をつなぐものとしてモネラという原始的な生物を仮想。それは蛋白質から成る無構造の塊とされ,これに物理法則が働いて単細胞生物へ,さらに多細胞生物へと進化すると考えた。この仮説を一時裏づけていたモネラの発見は,誤りであることがのちに判明した。生物を物理法則で説明しようとする基本姿勢は,遺伝に関する理論においてもとられており,原形質をつくっている分子の運動で遺伝の仕組みを説明。理論的考察のみに基づいてではあるが,核が遺伝に関係していることを,66年という早い時期に示唆した。また,有名な反復説を定式化し,「生物発生原則」とも呼んで重視した。主著『一般形態学』 Generelle Morphologie der Organismen (1866) 。

ヘッケル
Heckel, Erich

[生]1883.7.31. デーベルン
[没]1970.1.27. ラードルフツェル
ドイツの画家。ドレスデンの工科大学で建築を学び,のち絵画に転じた。友人 E. L.キルヒナーらとともに 1905年,表現主義運動「ブリュッケ」を創設。 11年よりベルリンに定住。 49~56年までカルルスルーエ美術学校教授をつとめた。強烈な色彩とはっきりした輪郭による風景,人物画が特色。また木版画,石版画も多数制作した。

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