家庭医学館 「化膿性骨髄炎」の解説
かのうせいこつずいえん【化膿性骨髄炎 Pyogenic Osteomyelitis】
有史以前の人骨にも、この病気にかかったあとがみられ、太古より人類を悩まし続けた病気で、骨の中(骨髄)に細菌が侵入して、化膿性の炎症をおこすものです。
急性化膿性骨髄炎と慢性化膿性骨髄炎とがあり、急性化膿性骨髄炎は、新生児期や学童期に多くみられます。
多くは、大腿骨(だいたいこつ)(太ももの骨)や脛骨(けいこつ)(すねの骨)におこります。
かつては死亡することもある病気でしたが、抗生物質の発達によって、いまではほとんど死亡することはなくなりました。
しかし近年、抗生物質が効きにくいMRSA(多剤耐性(たざいたいせい)ブドウ球菌(きゅうきん))などが感染して発病する場合もあり、初期治療のいかんによっては、慢性化して再発をくり返したり、成長にともなって下肢(かし)の変形や短縮などの問題がおこることもあります。
慢性化膿性骨髄炎は、急性のものが慢性化するものと、最初から慢性型で発病し、骨腫瘍(こつしゅよう)とまぎらわしいものがあります。
慢性型も、初期治療によっては、再発をくり返し、生涯にわたって悩まされることもあります。
[症状]
急性化膿性骨髄炎の症状は、悪寒(おかん)、高熱、局所の疼痛(とうつう)ですが、近年、このような症状がみられる患者さんは少なくなり、亜急性といわれるような、わりにゆるやかな症状で始まることが多くなりました。
患部は腫(は)れて、乳幼児では手足を動かそうとしません。
慢性化膿性骨髄炎では、発熱などの全身症状は、さらにゆるやかで、患部の腫れや痛みだけということが多いものです。
[原因]
骨髄に細菌が感染する経路としては、つぎのようなものがあります。
1つは、おできや扁桃炎(へんとうえん)などの原因となっている細菌が、血液の流れにのって(血行性に)骨髄に到達し、そこに炎症をおこす場合です。
また、近くに化膿した病巣があって、そこから炎症が直接、波及することもあります。
さらに、骨折や手術などで、骨髄が外にさらされ、細菌が直接、骨髄に感染することもあります。
原因となる菌には、黄色(おうしょく)ブドウ球菌(きゅうきん)がもっとも多く、最近では、緑膿菌(りょくのうきん)、表皮ブドウ球菌、変形菌、MRSAなどの感染が増加しています。
[検査と診断]
急性化膿性骨髄炎の初期段階では、X線検査をしても変化が現われず、MRIや骨(こつ)シンチグラフィーによる画像検査が有効になります。
血液検査では、白血球(はっけっきゅう)の増加、赤血球沈降速度(せっけっきゅうちんこうそくど)の増加(赤沈値(せきちんち)の亢進(こうしん))、C反応性たんぱく(CRP)の陽性など、炎症性の変化がみられます。
また、動脈血の細菌培養を行なって、細菌を特定することもあります。
慢性化膿性骨髄炎では、MRI、骨シンチグラフィー、X線撮影、瘻孔造影(ろうこうぞうえい)(骨の周囲などにX線に写る造影剤を注入し、骨の孔(あな)などをとらえる)といった画像検査が、病巣の範囲をとらえるために重要です。
[治療]
急性化膿性骨髄炎では、一刻も早く治療を開始することが重要です。患部を安静にするため、ギプス固定、冷湿布(れいしっぷ)を行ない、抗生物質を点滴で使用します。
骨髄内や骨膜(こつまく)に膿(うみ)がたまっているときには、切開して膿を取り除きます。
慢性化膿性骨髄炎では、まず抗生物質の使用と、高気圧酸素療法(こうきあつさんそりょうほう)を行ないます。
高気圧酸素療法とは、高気圧治療装置の中で、大気圧より2~3倍の圧力をかけて純酸素を呼吸させる治療法です。酸素による殺菌効果だけでなく、白血球が細菌を取り込んで処理する能力を高めます。通常は20~30回行ないます。
それでも、炎症がおさまらない場合は、持続洗浄療法(じぞくせんじょうりょうほう)が有効です。
持続洗浄療法とは、まず手術を行ない、病巣の膿や周辺部をとってきれいにしてから、患部と体外をつなぐチューブをおき、何度も患部に抗生物質を注入しては吸い出して、洗浄する方法です。
これらの治療によって、近年、骨髄炎の治療は、著しく成果をあげるようになっていますが、それでも、再発をくり返す症例もみられます。