医療大麻(読み)いりょうたいま(英語表記)medical cannabis

知恵蔵 「医療大麻」の解説

医療大麻

医療に用いられる麻(大麻)や、麻(大麻)に含まれる成分のこと。「医療用大麻」という用語が使われることもあるが、原料となる麻の品種自体に医療用と嗜好(しこう)用の植物学的な区別があるわけではない。国と地域によっては、化学的に合成された一部の成分が医薬品として承認されており、それらについても「医療大麻」と称される。
麻はインド原産といわれ、数千年前から世界中で繊維、油、薬などに利用されてきた。薬として利用されてきたのは、主に葉と花を乾燥させたものや、種子から絞った油で、ぜんそく、疼痛(とうつう)、睡眠障害に対する効果が知られていた。
麻に含まれる化学成分はカンナビノイドと総称されている。カンナビノイドは300種類以上あるといわれ、そのうち60種類以上は化学的構造式も明らかになっている。このうち薬理作用を持つ成分として特に重要なのが、テトラヒドロカンナビノール(THC)、カンナビジオール(CBD)、カンナビノール(CBN)で、THCには強い向精神作用がある。各成分の適応と効果の全容はまだ明らかになっていないが、末期エイズ患者の食欲増進、吐き気止め、神経因性疼痛の鎮痛など用途に応じて成分の配合割合を調整した製剤がある。また、医療用に用いられる剤型は、大麻草そのものを乾燥させたり樹脂を固めたりしたもの、大麻草から抽出した成分をスプレー経口投与するもの、合成カンナビノイドを含む錠剤及び注射用製剤など様々である。
2016年11月現在、医療大麻が使用されている主な国に、カナダ、イギリス、アメリカ合衆国の一部、イスラエルオランダ、ドイツなどがあるが、適応や処方量の規制などはそれぞれの地域によって異なる。
日本では大麻取締法により、都道府県知事から大麻取扱者の免許を受けた者以外は栽培、使用、売買、研究を禁止されており、医療目的であってもその使用は認められておらず、大麻から製造された医薬品の使用も禁止されている。また、繊維を採るために栽培する場合は、THCの含有率の低い品種に限られる。ただし、成熟した大麻の茎と種子にはTHCがほとんど含まれないことから取締対象から除外されており、輸入するなどして使用することはできる。
2015年、末期の肝がん治療のために大麻を所持していた男性が逮捕され、無実を訴えて裁判となったが公判中に被告が死亡したため控訴棄却となった。また、元女優の高樹沙耶は、医療大麻の解禁を求めて2016年の参議院議員選挙に立候補し落選。同10月、沖縄県の自宅に大麻を所持していたとして逮捕された。

(石川れい子 ライター/2016年)

出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報

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