南部再建(読み)なんぶさいけん(その他表記)Reconstruction

改訂新版 世界大百科事典 「南部再建」の意味・わかりやすい解説

南部再建 (なんぶさいけん)
Reconstruction

アメリカの南部反乱諸州(旧アメリカ南部連合)を連邦に復帰させるため,南北戦争後に南部に対して行われた一連の政治的・経済的・社会的処置。通常,再建期は1865年の敗戦による南部連合解体によって始まり,ティルデンヘーズ大統領選挙をめぐる妥協の成立した77年をもって終了したとされる。しかし事実上の再建過程は,はやくも1862年ごろから,連邦軍の占領地域で手さぐりの状態ながら開始されており,その終結も70年代の初めには動かしがたい事実となっていた。4年間にもわたる〈骨肉の戦い〉となった南北戦争は,当時の法的・政治的体系枠組みをはるかに超える種々の問題を提起した。1863年の奴隷解放宣言の合憲性,分離諸州の連邦復帰を含めた南部再建の権限は大統領(行政府)にあるのか議会立法府)にあるのか,連邦政府は州政治領域の問題にどの程度まで介入しうる権限を有するのか,これらの深刻な問題を内包しつつ,リンカン大統領は,奴隷解放宣言を憲法第13修正(1865発効)として憲法へ定着させる一方,1860年の南部白人人口の10%が連邦への忠誠を誓約することを条件に,南部反乱諸州の連邦復帰を認めるという穏健な再建政策をとった。65年のリンカンの死後,大統領に昇任したジョンソンはより保守的な政策をとり,南部の連邦復帰への議会側の一種の妥協案である憲法第14修正(市民権条項など)すら拒否して,全面的に南部支持にまわったため,再建政策の主導権をめぐる議会と大統領との対立は決定的となった。しかし,議会による急進的再建政策が大統領の拒否をのりこえ,67年再建法成立によって黒人参政権が与えられ,大量の黒人が政治の領域に進出した。

 これらの再建政策が,南部の白人と黒人との間の人種間の,南部と北部との地域間の,そしてカーペットバッガー(利権を求めてかばん一つで北部からやってきた一旗組の政治家たち=共和党)とブルボン(南部保守派白人指導者たち=民主党)の対立に代表される政党間の錯綜した利害を絡み込んで展開された。また同時に,クー・クラックス・クランに代表されるテロリズムと暴力が横行したこともあって,この時期は合衆国史における〈憎しみの時代〉もしくは〈悲劇の時代〉と呼ばれる。しかし70年ごろには,投票権の皮膚の色による制限を禁止した憲法第15修正が反乱諸州で批准されたことなどにより,南部の各州が続々と連邦への復帰を認められ,事実上再建政策は終了していく。南部は,こうしてその政治的復権に成功すると,共和党主導下の連邦軍による軍事占領という再建期の苦い思い出への反発もあって,その後民主党の一党独裁体制のもとに強い団結を誇るソリッド・サウスと呼ばれる特異な地域的特色をみせていくことになる。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「南部再建」の意味・わかりやすい解説

南部再建[アメリカ合衆国]
なんぶさいけん[アメリカがっしゅうこく]
Reconstruction of the South

アメリカ南北戦争後,南部連合に属した南部諸州を連邦に復帰させるためにとられた政治的,経済的,社会的諸政策。公民権法や再建法を中心とする諸措置がとられた時期をさす場合もある。 1865年4月 11日の演説で A.リンカーン大統領は,南部諸州の連邦復帰の構想を明らかにし,次いで A.ジョンソン大統領が5月 29日南部に対する漸次的な連邦復帰の改革案を公表した。南北戦争後,議会の主導権は北部産業資本家,金融業者の政治的代弁者である共和党急進派の手に帰し,66年秋の選挙では上下両院の3分の2以上を占め,彼らが組織した両院の再建協同委員は,ジョンソンの南部再建政策に反対した。 67年3月議会は再建法 Reconstruction Actsを可決し,南部をテネシー州を除く5区の軍政地域に編成して軍政を行い,黒人普通選挙を含む州憲法制定を条件として州政府の樹立を認め,諸州は憲法修正第 14条 (公民権法を実質とする) を承認することを条件に連邦議会への代表選出が許されることになった。 68年共和党急進派はアーカンソーなど7州の復帰を認め,70年には残りのバージニアなど3州も連邦に復帰した。さらに「1877年の妥協」によって,ルイジアナ,フロリダから連邦軍隊が撤退し,政権も南部白人に戻り,再建は一応終了した。しかし,経済面では当初から再建は放置されて,むしろ北部資本の植民地と化し,また黒人もシェア=クロッパー制のなかに再編されていった。

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