日本大百科全書(ニッポニカ) 「単相誘導機」の意味・わかりやすい解説
単相誘導機
たんそうゆうどうき
single phase induction machine
単相電源により運転する誘導電動機。単相の誘導発電機はほとんど使われていない。単相交流電流を巻線に流すと交番磁界ができるが、回転磁界ができない。そのため単相誘導機では二相巻線を用いる。二相巻線を使うと単相交流電流でも回転磁界をつくることができるので、運転トルク(回転力)の発生が可能である。しかし、二相巻線だけでは始動トルクが得られない。そこで、始動トルクを得るためにさまざまな方式が考えられている。
単相誘導電動機は、かつては単相電源で使われる家電製品用の電動機の主力であった。1980年代以降、ルームエアコン、洗濯機などの比較的電力の大きい用途では単相電源のインバーターを使って三相交流電動機を駆動するのが一般的になり、単相誘導電動機はあまり使われなくなった。2010年代では単相誘導電動機は換気扇、扇風機などの小容量の用途に限定されてきている。
[森本雅之]
分相始動
二相巻線を直角に配置し、それぞれを主巻線、始動巻線とよぶ。始動巻線を細い線で巻数を少なくすると、主巻線より抵抗が大きく、リアクタンスも小さくなる。そのため始動巻線に流れる電流の位相が主巻線よりも進み、両巻線の磁束に位相差ができ始動トルクが発生する。
[森本雅之]
コンデンサー始動
一つの相を主巻線として直接電源電圧を加え、他の相の巻線にはコンデンサーを直列に接続して、この回路に主巻線と同じ電圧を加え、始動トルクを生じさせる。
コンデンサー始動はさらに、コンデンサーの接続法によって次の方式に分けられる。
(1)永久分相コンデンサー始動(PSC:permanent split capacitor) 始動巻線にコンデンサーを常時接続しておくもの。もっとも簡単な構成である。トルク脈動、力率、騒音などの運転特性は良好であるが、始動トルクが小さい。数百ワット以下クラスの小型機に用いられる。家庭用の扇風機、換気扇などの一定速で使われる電動機には多く使われている。この方式は常時コンデンサーを接続しているためコンデンサーモーターとよばれる。
(2)コンデンサー始動誘導電動機(CS:capacitor start) コンデンサーが接続された始動巻線にスイッチを入れたもの。始動後、回転子が加速するとスイッチを開き、あとは主巻線だけで運転を続ける。
(3)コンデンサー始動コンデンサー誘導電動機(CSCR:capacitor start capacitor run) 前記の(1)と(2)をあわせた構成で、始動時のコンデンサー容量が大きいので始動トルクが大きく、しかも運転特性がよい。また騒音(電磁音)も少ない。
[森本雅之]
隈取(くまとり)コイル形
固定子の鉄心の一部に短絡コイル(隈取コイル)を設け、始動トルクを得るもの。主巻線の磁束により短絡コイルに渦電流が流れる。この渦電流により発生する磁束は主磁束と位相が異なるので始動トルクが発生する。始動トルクが小さいのでファンなどの用途に限定される。
[森本雅之]
反発始動形
回転子に整流子をもった電機子巻線とかご形導体をもち、直巻(ちょくまき)直流電動機の回転子とかご形回転子を組み合わせたような構成である。始動時は単相直巻整流子電動機(ユニバーサルモーター)として大きな始動トルクを発生し、始動後はかご形誘導機に切り替える。回転中は整流子を短絡することによって整流子巻線もかご形導体と同じように用いることもできる。
[森本雅之]