日本大百科全書(ニッポニカ) 「博多小女郎浪枕」の意味・わかりやすい解説
博多小女郎浪枕
はかたこじょろうなみまくら
浄瑠璃義太夫(じょうるりぎだゆう)節。世話物。三段。近松門左衛門作。1718年(享保3)11月、大坂・竹本座初演。当時話題になった長崎の密貿易団事件に取材した作。京の商人小町屋惣七(こまちやそうしち)は博多へ下る便船に乗り、その船主毛剃九右衛門(けぞりくえもん)が抜符買(ぬけふかい)(密輸)の頭目だったことを知ったため、海中へ投げ込まれるが、運よく伝馬船(てんません)で逃げ延びる。落ちぶれた姿で博多の遊廓(ゆうかく)奥田屋へ恋仲の遊女小女郎を訪ねた惣七は、豪遊する毛剃一味に出会い、仕返ししようとするが、なだめられ、小女郎の身請けを条件に仲間に加わる。以上が上の巻「元船(もとぶね)」と「奥田屋」で、中の巻・下の巻は、小女郎と京都心清町(しんせいちょう)で所帯をもった惣七が、父の意見によって毛剃と手を切り、草津へ落ち延びるが、罪状が知れて追い詰められ、自害するまで。
意志の弱い男が女への愛着のため、しだいに破滅に至る過程を描写、父子の愛情もよく描かれているが、歌舞伎(かぶき)では毛剃を主役に改訂され、ことに7世市川団十郎の創始した演出が現代に伝わり、普通、上の巻だけを『恋湊博多諷(こいのみなとはかたのひとふし)』の名題(なだい)により、惣七を小松屋宗七の役名で上演することが多い。巨大な元船を飾って大道具のスペクタクルを示す「元船」と、「奥田屋」の異国趣味豊かな廓(くるわ)情緒が特色で、通称「毛剃」。
[松井俊諭]
『鳥越文蔵訳・校注『日本古典文学全集44 近松門左衛門集2』(1975・小学館)』