卯立,梲とも書く。古くは梁の上にたつ束柱を意味した。室町時代以後は,民家の妻壁を大屋根面より一段高く突出させて小屋根をつけたものをもさす。《洛中洛外図屛風》にも多く描かれているが,ここにみる小屋根は草ぶきや板ぶきで,のちのものの多くが瓦ぶきであるのと異なっている。これは民家の屋根ふき材料が草ぶき,板ぶきから瓦ぶきへと変化してきたことと関係がある。〈うだつ〉は,富や格式の高さを象徴する一つの方法であり,〈うだつが上がらぬ〉はよい身分になれないことのたとえである。大和・河内地方でおこなわれている高塀造,いわゆる大和棟は,〈うだつ〉の上がった家構えであり,江戸時代には大庄屋,庄屋層などの家の格式を示す形式であり,18世紀中ごろ以降に成立し,明治以降は一般農家にも普及するようになった。ただ〈うだつ〉は,全国的には農家でなく,町家に多く用いられ,富の蓄積を示すこととなった。一方,〈うだつ〉は,厚い土壁で塗られるため,その上の小屋根が草や板でふいてあっても防火の機能をもっていた。この種の〈うだつ〉には,屋根の上に突出するものばかりでなく,二階の軒下に張り出した袖壁,すなわち袖うだつもある。袖うだつは,軒下を伝わってくる火を防ぐ効果をもったと考えられる。時代が下り,大正期には,軒下に付けるだけでなく,下の基礎から立ちあげ,2段3段の小屋根をあげた黒しっくい塗の袖うだつが,全国各地の町場にあらわれ,その家の富を示す形式となった。ところで,〈うだつ〉はこれとは反対にきわめて粗末な家をあらわす言葉でもある。うだつ家,うだつ小屋といえば,掘立小屋を意味した。1733年(享保18)の信州諏訪藩福沢村の家数書上帳にはうだつ家が53軒中14軒ある。なお丹波地方の民家で,棟束を〈おだち〉と呼ぶのは,うだつと同義であろう。棟木を支える部材である点で,古代の〈うだつ〉と同じ機能をもつ。
執筆者:宮沢 智士
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 (株)朝日新聞出版発行「とっさの日本語便利帳」とっさの日本語便利帳について 情報
…なかには妻側の壁を高くあげ,建物外側を高い土壁で囲むようにした家もあり,防火に対する関心もうかがわれる。屋根は板葺きで石を置いているが,長屋であっても隣家との間に茅の小屋根でつくった〈卯建(うだつ∥うだち)〉を置き,一戸ごとのくぎりを明確にしている。内部ははっきりしないが,片側が裏まで抜ける土間になり,それに沿って前後2室の床(ゆか)の間が並んでいるようである。…
…それに対して,東日本の町家は,〈せがい造〉(側柱の上部から腕木をのばして棚をつくる)で持ち出した深い軒と勾配の緩い軽快な石置き屋根が外観を特徴づける。 江戸時代の京都の町家では,軒端で妻壁を屋根より一段高く立ちあげ,上に小屋根を載せた壁をつくり〈うだつ(卯建)〉と呼んだ。防火のため,あるいは富や格式の象徴といわれているが,いまではほとんど見かけなくなっている。…
※「卯建」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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