硫化水銀(読み)リュウカスイギン(その他表記)mercuric sulfide

デジタル大辞泉 「硫化水銀」の意味・読み・例文・類語

りゅうか‐すいぎん〔リウクワ‐〕【硫化水銀】

水銀硫化物
硫化水銀(Ⅰ)。不安定で、常温水溶液中でただちに分解し、硫化水銀(Ⅱ)と水銀とになる。化学式Hg2S
硫化水銀(Ⅱ)。黒色または赤色固体天然には辰砂しんしゃとして産出し、黒色のものは昇華により安定な赤色の粉末に変わる。赤色のものは顔料に用い、しゅとよぶ。化学式HgS

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精選版 日本国語大辞典 「硫化水銀」の意味・読み・例文・類語

りゅうか‐すいぎんリウクヮ‥【硫化水銀】

  1. 〘 名詞 〙 水銀の硫化物。硫化第一水銀(Hg2S)、硫化第二水銀(HgS)が知られる。

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改訂新版 世界大百科事典 「硫化水銀」の意味・わかりやすい解説

硫化水銀 (りゅうかすいぎん)
mercuric sulfide

化学式HgS。1価の水銀の硫化物Hg2Sが存在するという明確な証拠はない。融点1450℃(120気圧),1気圧では583.5℃で昇華する。赤色と黒色の2形がある。(1)赤色α形水銀 天然にはシンシャとして産し,これは水銀の主要鉱物である。酢酸水銀,チオシアン酸アンモニウムの熱氷酢酸溶液硫化水素を通じてつくる。また水銀を五硫化カリウムK2S5の溶液と加熱したり,水銀と硫黄とを直接反応させても得られる。比重8.10。六方晶系。酸化水銀(Ⅱ)HgOの六方晶系結晶と結晶構造が類似する。-Hg-S-Hg-S-の原子配列がらせん状をしており,そのため結晶はきわめて強い旋光性をもつ。結晶は全体としてひずんだ塩化ナトリウム型格子であり,硫黄原子が正常の位置から少しずれている。Hg-Sの最短原子間距離2.52Å。(2)黒色β形水銀 天然には黒シンシャとして産する。等軸晶系,セン亜鉛鉱型構造。格子定数a=5.84Å。Hg-Sの最短原子間距離は2.83Åで赤色α形とほとんど等しい。比重7.73。赤色α形を410℃以上に加熱すると,かなり速やかに黒色となる。赤色形と黒色形の転移点は386℃であるが,黒色形は室温においても安定で変化しない。しかし熱すると赤色形に変わる。赤色形に光をあてると黒化するが,これは黒色形への変化によるものか,または分解によるものかは明確ではない。黒色形はまた塩化水銀(Ⅱ)の希塩酸溶液に硫化水素を通ずると生ずる。水に対する溶解度はきわめて小さく,溶解度積は3×10⁻54(26℃)である。硝酸を含む多くの酸に不溶だが,濃臭化水素酸,濃ヨウ化水素酸,王水には溶ける。また硫化アルカリ濃溶液にも[HgS22⁻等を生じて溶ける。多硫化アンモニウムには溶けない。水素と400℃に加熱すると金属水銀と硫化水素を生ずる。酸素と加熱すると水銀と硫酸水銀(Ⅱ)および(Ⅰ)HgSO4,Hg2SO4の混合物と二酸化硫黄SO2を生ずる。このような反応はα形,β形ともに同様である。また両者とも半導体の性質および光伝導性を有する。ともに重要な顔料であるが,とくに赤色形はバーミリオンの色名で画材として使われる。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「硫化水銀」の意味・わかりやすい解説

硫化水銀
りゅうかすいぎん
mercury sulfide

水銀の硫化物で、一価および二価水銀の化合物が知られている。

(1)硫化水銀(Ⅰ) 塩化水銀(Ⅰ)Hg2Cl2に-10℃以下で硫化水素を作用させると黒色、不安定な粉末として得られる。化学式Hg2S、式量433.2。常温の水溶液ではただちに不均化して、
  Hg22++H2S→Hg+HgS+2H+
のように分解する。

(2)硫化水銀(Ⅱ) 赤色の安定なα(アルファ)態と黒色の準安定なβ(ベータ)態との二つが存在する。化学式HgS、式量232.7。

[中原勝儼]

赤色硫化水銀

天然に辰砂(しんしゃ)として産し、顔料として用いられるときは朱(しゅ)という。水銀を五硫化カリウムK2S5水溶液と熱するか、黒色硫化水銀を昇華すると得られる。朱赤色結晶性粉末(六方晶系)。硬さ2~2.5。580℃で昇華する。空気中では徐々に暗色となる。水、酸に不溶。硫化アルカリ、水酸化アルカリ水溶液に難溶。王水に溶ける。顔料のほか軟膏(なんこう)として皮膚病の治療に用いられる。

[中原勝儼]

黒色硫化水銀

黒辰砂として天然に産することもある。水銀(Ⅱ)塩水溶液に硫化水素を通じて沈殿させてつくる。黒色の粉末(立方晶系)。446℃で昇華する。水、酸に不溶。硫化アルカリ水溶液にはチオ塩をつくって溶ける。水酸化アルカリ水溶液にも溶け、王水によく溶ける。

[中原勝儼]

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化学辞典 第2版 「硫化水銀」の解説

硫化水銀
リュウカスイギン
mercury sulfide

】硫化水銀(Ⅰ):Hg2S(433.25).塩化水銀(Ⅰ)を-10 ℃ 以下に冷して硫化水素と二酸化炭素を反応させると得られる.黒色の結晶.密度8.35 g cm-3.0 ℃ 以上で硫化水銀(Ⅱ)と水銀に分解する.水や酸に不溶.【】硫化水銀(Ⅱ):HgS(232.66).黒色,等軸晶系のβ形と,赤色,六方晶系のα形がある.天然産のβ形は黒しん砂とよばれる.塩化水銀(Ⅱ)の水溶液に硫化水素を通じるとβ形が得られる.密度7.7 g cm-3.昇華点446 ℃.β形は準安定な化合物で,濃厚な硫化アルカリ水溶液で処理するか,昇華させるとα形にかわる.天然に産出するα形は,しん砂,丹砂,朱砂とよばれる.密度8.09 g cm-3.昇華点580 ℃.水,エタノール,硫酸などにはほとんど溶けない.硫化アルカリ,王水に可溶.結晶はらせん軸が存在するため大きな旋光能をもつ.医薬品(皮膚病薬),赤色顔料(朱,バーミリオン)に用いられる.有毒ではあるが,きわめて難溶のため,毒性は低い.[CAS 1344-48-5]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「硫化水銀」の意味・わかりやすい解説

硫化水銀
りゅうかすいぎん
mercury sulfide

(1) 硫化水銀 (I) ,硫化第一水銀  Hg2S 。黒色の固体。第一水銀塩の水溶液に硫化水素を通じると得られるが,不安定でただちに硫化第二水銀と水銀に分解する。
(2) 硫化水銀 (II) ,硫化第二水銀  HgS 。赤色のものは朱で安定であり,天然には辰砂として産出する。緋赤色の粉末あるいは塊で,光に当ると黒変する。約 250℃で褐色,さらに熱すると黒色になるが,冷却するともとに戻る。水に不溶。プラスチック着色剤,封ろう,赤色顔料として使われる。黒色種は,黒色ないし灰黒色の重い粉末で,無臭,無味,無定形物質。水に不溶,希酸と反応しない。ゴムなどの着色顔料として使用される。

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