日本大百科全書(ニッポニカ) 「原体照射法」の意味・わかりやすい解説
原体照射法
げんたいしょうしゃほう
conformal radiation therapy
病巣の形状にあわせて回転または多数のビームを用いて立体的に放射線を当てる照射方法。
沿革
体の外から放射線を照射する外部照射は、1960年代にコバルト60を利用した同軸回転照射機を用いた遠隔照射が標準となり、照射野(放射線が照射される範囲)も左右、上下対称に動くブロックで長方形につくられ、病巣(clinical target)を完全にカバーするように照射できるようになった。しかし、この方式では病巣は完全に照射されても、照射野に含まれる正常な部分にも放射線が通過するため同じように照射されてしまう。そこで正常な部分に対する照射を少なくするため、方向の異なる複数のビームを用いて照射する多門照射法や回転させながら照射する回転照射法が開発された。しかし、回転照射法では線巣(照射体積)は円柱形になるため、病巣を完全にカバーできるよう原寸の照射体積楕円(だえん)をベークライト板にくりぬき、その楕円を用いて機械的に左右のブロック(コリメータ)を制御する照射技術が1960年に名古屋大学で開発された。これが原体照射法の始まりである。
その後、左右のコリメータを非対称的に動かすため独立して制御できる偏心コリメータが開発され、1970年代には左右のコリメータを1対ではなく4、5対に分割し、それぞれ独立して制御する多葉コリメータも開発された。これにより線巣の形を病巣の形によりいっそう近づけることが可能となってきたが、同時に治療計画も複雑になった。線巣内の線量を均一にするには、病巣の位置、形、大きさの要素が重要であるが、その判断が困難であるなどの問題が生じた。その対策として回転横断断層撮影が開発され、利用されるようになった。
[石川 仁 2024年2月16日]
三次元原体照射法
1980年代になるとコンピュータ断層撮影装置(CT)が放射線治療計画に利用できるようになり、病巣の位置、形、大きさを空間的に正確に把握できるようになった。複雑な病巣内の線量を均一にする治療計画もコンピュータの発達で可能となり、多葉コリメータの制御についても手動ではなく、デジタル通信によるコンピュータ制御で実施されるようになった。治療計画に用いる画像も、当初は写真にした画像を見て病巣を判断し、線画で治療計画コンピュータに入力していたが、CT装置から直接デジタル入力し、その画像データを治療計画の吸収補正に用いるようになった。その結果、病巣周囲の正常臓器を避けるために、多葉コリメータによって病巣の形状に一致させたビームを三次元的に適切な方向から照射できるようになった。三次元原体照射法として知られるこの照射技術の特徴は、病巣周囲の正常臓器に照射される線量や体積を治療前に把握できることである。得られた線量体積ヒストグラム(dose-volume histogram:DVH)から正常臓器が耐えられる線量(耐容線量)を規定することで、作成された治療計画が安全に実施できるかどうかを事前に確認できるため、従来の治療法と比較して治療に伴う重篤な有害事象を格段に減らすことが可能となった。
一方、三次元原体照射が成功するためには、照射する際の位置照合がこれまで以上に重要となった。毎日の照射前に透視画像やCT画像を用いて、位置照合ができるシステムが広く浸透してきたが、最近ではMRI画像を取得できる放射線治療装置も普及している。また、照射前に位置照合をするだけでなく、呼吸で動くような臓器(肺がんや肝臓がんなどの疾患)に対しては照射中の動きをとらえながら照射することも可能となった。このように画像情報をもとに正確に照射する技術は、画像誘導放射線治療(image-guided radiotherapy:IGRT)として知られ、今日の高精度放射線治療には必須の技術である。
原体照射法を発展させて小さな病巣に多数のビームをピンポイントで照射する定位的放射線照射(stereotactic irradiation:STI)は、従来、脳腫瘍(しゅよう)に広く行われてきた。この技術をさらに応用して、肺がんや肝臓がんなどで5センチメートル以下の小さな腫瘍に対して行われる体幹部定位放射線治療(stereotactic body radiation therapy:SBRT)も保険収載され普及している。
また、原体照射法のもう一つの発展型として強度変調放射線治療(intensity-modulated radiation therapy:IMRT)がある。原体照射法では、治療計画者が得られた画像情報から試行錯誤しながら最適な線量分布を前向きに作成する順方向計画(forward plan)で行うが、IMRTでは、病巣への照射線量と病巣周囲の正常臓器の耐容線量からそれらの臓器の線量制約をあらかじめ決めておき、治療計画コンピュータに最適な治療計画を作成させる逆方向計画(inverse plan)で行う。この照射技術の最大の特徴は、これまでの放射線治療では均一であったビーム内の線量に強弱をつけることで、正常臓器を避け病巣の形状に一致するような不整形の線量分布が得られることである。その結果、原体照射法では外に凸であった高線量領域をへこませることができる。これにより正常臓器への影響をさらに減じることが可能となった。国内では限局性の固形がんに対し保険適用となっている。
[石川 仁 2024年2月16日]