放射線療法の一種。体内の比較的小さな体積の腫瘍(しゅよう)などに、定位的に(ピンポイントに)、かつ高線量を短期間で集中的に照射する治療方法である。定位放射線照射(stereotactic irradiation:STI)には、「1回照射で行う定位手術的照射」(stereotactic radiosurgery:SRS)と、「分割照射で行う定位放射線治療」(stereotactic radiotherapy:SRT)がある。いずれにおいても、病巣の形状や大きさ等にあわせて正確に照射することで、周辺の臓器・組織へのダメージを最小限にして病変を治療する。一般的に「ピンポイント照射」と称される。
定位放射線治療はスウェーデンの脳外科医ラース・レクセルLars Leksell(1907―1986)によって考案された。レクセルは、放射線の細いビームを用いて頭蓋(とうがい)内の標的に対して正確に定位的に照射することにより、開頭術を行うことなく病巣を破壊するSRSの概念を1951年に公表した。最初の治療は1968年にスウェーデンのソフィアヘメット病院に設置された装置レクセルガンマユニットで行われた。当初は三叉(さんさ)神経痛やがん性疼痛(とうつう)、行動異常といった通常の脳外科治療ではコントロールできない機能的障害を治療する目的で用いられた。その後装置は改良され、またCTやMRIなどの診断技術を取り入れ、より正確な治療を行うことができるようになり、脳動静脈奇形や脳腫瘍に用いられるようになった。この装置で治療した部位の辺縁は非常に明瞭(めいりょう)であるゆえに、γ(ガンマ)線を用いたこの装置は「ガンマナイフGamma Knife」ともよばれている。照射ユニットには約200個のコバルト60(60Co)の線源が円周状に装填(そうてん)されており、各々のγ線が照射ユニット上の半球内の一点に集中するように制御できる。治療計画にはCTまたはMRIの画像が用いられてきたが、最近ではPETや脳機能を解析するMEG画像も用いることが可能である。脳動静脈奇形、聴神経腫瘍、脳腫瘍などの治療に利用されている。
近年、定位放射線照射は、その専用装置ではなく、放射線治療装置として普及しているリニアックでも行えるようになり、X線による定位照射専用装置も開発され、広く利用されている。リニアックによる定位照射技術は、脳だけでなく体幹部のがん治療でも応用されている。一方で、多数のビームを集中させて治療を行う必要があるため、実施は小さな病巣に限られる。また、体幹部の病巣に対する定位放射線治療では、ほとんどの場合、1回照射ではなく照射を数回に分割したSRTが実施される。
2022年(令和4)時点での定位照射の適応は、頭頸部(とうけいぶ)腫瘍(頭蓋内腫瘍を含む)、脳動静脈奇形、5センチメートル以下で転移のない原発性肺がん、原発性肝がん、または原発性腎(じん)がん、3個以内で他病巣のない転移性肺がん、または転移性肝がん、転移のない前立腺(せん)がん、または膵臓(すいぞう)がん、5センチメートル以下の転移性脊椎(せきつい)腫瘍、5個以内のオリゴ転移、脊髄(せきずい)動静脈奇形である。
[石川 仁 2023年2月16日]
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