企業の有するすべての資産を,その資産の取得や製造のために実際に支出した金額,すなわち取得原価を基礎にして評価すべきであるとする考え方。原価基準ということもある。近代会計理論の通説であり,現行日本の制度会計もこの考え方を基礎にしている。原価主義のおもな長所は,(1)実際支出額を基礎にするために客観的な評価が可能であること,(2)支出額を超える額で評価されることはないので未実現利益を排除しうること,(3)第三者との実際取引に基づいた確実な記録がなされること,である。しかし,貨幣価値の変動が激しい時期においては,(1)計上された損益の中に貨幣価値の変動に基づく架空損益が含まれることになること,(2)貨幣価値が下落している場合,架空利益を基準として利益処分が行われる結果,実質的な資本維持が図れないこと,(3)貸借対照表に示される資産の評価額はその時点の資産の実際価額とかけ離れた評価額によって示される結果,企業の正確な財産状態の判断ができなくなること,などの欠陥が指摘される。これらの欠陥を補うために,原価主義のもとで減価償却における加速償却や棚卸資産評価における後入先出法(先入先出法・後入先出法)などが考えられてきているが,いずれも不十分である。かくて,原価数値を貨幣の購買力を示す指数(GNPデフレーター,卸売または消費物価指数など)によって修正し,原価主義の長所を守ろうとする考え方,すなわち修正原価主義が数十年前から主張されている。また,個々の資産のその時点の市場価格(時価)によって評価すべきであるとする考え方,すなわち時価主義も根強く主張されている。
執筆者:嶋 和重
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…この結果,損益の帰属する会計期間に変化を与えることになるからである。しかし,低価主義を原価主義の枠内のものとして,原価主義の思考から理論づけ,妥当化しようとする考え方がある。たとえば,アメリカ公認会計士協会(AICPA)会計手続委員会の見解によれば,棚卸資産の効用が原価以下となった場合,その差額はもはや次期以降での有用性が期待できない原価であるから,当期の損失としなければならないとする。…
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