原子力損害(国境を越える損害を含む)に関する国際的な賠償制度の構築を目的とする条約。1997年9月12日にウィーンで採択された。日本の受諾によって発効要件が満たされ、2015年(平成27)4月15日に発効した。正式名称は「原子力損害の補完的な補償に関する条約(Convention on Supplementary Compensation for Nuclear Damage)」で、英語名の略称であるCSCが用いられることもある。2017年6月時点で締約国はアルゼンチン、カナダ、ガーナ、インド、日本、モンテネグロ、モロッコ、ルーマニア、アラブ首長国連邦、アメリカの10か国である。原子力損害責任については、ほかに、パリ条約(1960)、パリ条約補足ブラッセル条約(1963)、パリ条約追加議定書(1964)およびパリ条約修正議定書(1982)、ウィーン条約(1963)、ウィーン条約の改正議定書(1997)、パリ条約・ウィーン条約共同議定書(1988)などがある。
CSCは、ウィーン条約とその議定書またはパリ条約とその議定書の実施のための国内法令の下の賠償または補償の制度を補完しており、締約国の領域内に所在し、平和的目的のために使用される原子力施設の事業者が責任を負う原子力損害に適用される。裁判管轄権は事故発生国に存すること、原子力事業者は無過失責任を負うこと(故意または過失がなくても責任を負うこと)、賠償責任は同事業者に集中されること、外国事業者による賠償は内外無差別原則に基づいて国籍や住所による差別なく公平に分配されること、締約国は一定額(原則3億SDR:約470億円)以上の賠償措置を定めること、また、その額を超える場合は各締約国が拠出する基金により補完することを定めている。
日本は、国内法が充実しているとして、2011年時点ではこれらの条約には入っていなかった。一方、アメリカ企業のなかには、汚染水処理や廃炉の経験、遠隔操作技術を有するものがある。しかしそれらの企業は、東京電力福島第一原子力発電所事故の除染事業については、その作業中の負傷者がアメリカで巨額の損害賠償裁判を起こすことを懸念して、事業への参入を躊躇(ちゅうちょ)した。そのため、原子力事業者への責任集中を定めるCSCへの日本の加入が求められたのである。他方、CSCの下では原発メーカーの責任が制限されるため、原発輸出を促す効果も期待された。
日本国内では、2015年1月15日の受諾書の寄託、1月16日の公布を経て、4月15日に発効した。その受諾書の寄託の際に、日本は、関連する国内法令による措置を維持するためCSCの附属書について3件の留保を付した。なお、CSCに対応するための国内法2件が2014年11月28日に公布されていた。
[磯崎博司 2021年10月20日]
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