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原子力船 げんしりょくせんnuclear-powered ship

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説

原子力船
げんしりょくせん
nuclear-powered ship

原子炉を動力源として推進する原子炉には小型軽量の加圧水型が用いられ,発生した蒸気をタービンに送り推進力および電源とする。原子力を用いることの利点は,燃料補給期間を長くとれること,エネルギー発生のため酸素 (空気) を必要としないことの2点である。この利点を生かし,原子力潜水艦,航空母艦など多くの軍艦が建造されている。軍事目的以外にも,1959年砕氷船『レーニン』号 (ソ連) ,62年貨客船『サバンナ』号 (アメリカ) ,68年鉱石運搬船『オットー・ハーン』号 (西ドイツ) が竣工した。日本でも 69年特殊貨物船兼訓練船『むつ』が世界第4番目の原子力商船として進水したが,その後の複雑な社会情勢,試運転中に発生した放射線漏れなどのため,竣工は 91年2月となり,翌年所期の目的を達成して退役した。動力として出力3万 6000kWの加圧水型原子炉を搭載し,排水量約 8000t,速力は 17.5knであった。原子力商船の経済的可能性は,数万馬力しか必要としないために原子炉の規模が小さすぎてかえってコスト高になること,放射線遮蔽に対する要求がきびしくなり重量がかさむことなどから,現状では困難とされている。将来の可能性として,数十万馬力を必要とする超高速大型コンテナ船,北極海の海底石油基地へ氷山の下を通り直接アクセスする潜水タンカー等が考えられている。

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知恵蔵の解説

原子力船

推進の動力に原子炉を使う船舶。原子炉は酸素を消費しないので、最初に実用化されたのは米国の潜水艦の動力源として。その後も、経済性が問われない軍艦では、1回の燃料交換で長期航海ができるために空母などの水上艦でも使われている。非軍事用としては旧ソ連が商船とレーニン号など砕氷船数隻、米国が貨客船サバンナ号、旧西独が鉱石運搬船オットーハーン号を造った。日本では原子力船開発事業団(当時)が原子力実験船「むつ」(8300t)を建造し、1969年に進水した。74年に初めて原子炉を動かしたが中性子線が漏れていったん中止。改修後の92年に実験航海を終えたあと廃船となった。「むつ」の実験航海中は、反対運動をなだめるためにいろいろな名目の補助金が自治体などに支出された。当初の建造予算60億円は関連経費合計で1000億円にもなり、日本の原子力行政の失敗の見本となった。「むつ」は現在、動力をディーゼル機関に積み替え、独立行政法人日本海洋研究開発機構の海洋地球研究船「みらい」として運航している。

(渥美好司 朝日新聞記者 / 2008年)

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デジタル大辞泉の解説

げんしりょく‐せん【原子力船】

原子力を動力に利用して推進する船。

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百科事典マイペディアの解説

原子力船【げんしりょくせん】

原子炉で発生する熱を利用して推進機関を運転する船。ボイラーを原子炉と蒸気発生器の組合せに替えた蒸気タービン推進が普通である。すでに実用化している軍艦以外では,まだ原子炉・核燃料その他諸設備に伴う経済性,放射能安全性などに問題があり,速力,航続距離,積載量などに利点があるが,今日まで必ずしも経済性の見通しが立っていない。
→関連項目原子力保険

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世界大百科事典 第2版の解説

げんしりょくせん【原子力船 nuclear ship】

動力源として原子炉を搭載した船舶。すなわち,原子力船は動力発生の面でみると,在来のボイラー‐タービン船のボイラーを原子炉,蒸気発生器の組合せである原子力蒸気供給系nuclear steam supply system(NSSS)で置き換えたものである。 核燃料は化石燃料に比べてけた違いにエネルギー密度が高く,したがってごく少量の燃料で大出力・長期間運転ができること,そして酸素を必要としないことなどが大きな特徴であるが,反面,原子炉には放射線遮蔽を必要とするほか,安全上の諸対策を講じておかねばならないなどの問題がある。

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大辞林 第三版の解説

げんしりょくせん【原子力船】

原子炉を動力源とする船舶。

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日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

原子力船
げんしりょくせん

原子炉で発生する熱を利用して駆動用タービンを動かし推進する船舶。原子炉で発生する蒸気でタービンを動かす点では発電用原子炉と同じであるが、船舶に搭載するため遮蔽(しゃへい)体の少ないコンパクトな炉を必要とする。原子力船は核燃料を使うので、長期間にわたり燃料補給をせずに運行できる。開発の歴史は原子力発電より古く、軍事利用が先行した。1954年に原子力潜水艦ノーチラス号がアメリカで建造されたが、現在でも軍用の艦船が圧倒的に多く、平和利用の船舶はほとんどない。[青柳長紀]

原子力船の原子炉

原子力船に搭載する原子炉を舶用(原子)炉というが、開発の歴史は古く、アメリカで1953年に潜水艦用原型炉(STW)が、まず陸上でアイダホの国立原子炉試験場に建設された。炉型は、減速材と冷却材に軽水を用い、高い圧力を加えて冷却材を循環させる加圧水型軽水炉(PWR)で、のちにアメリカで大型化され、発電用原子炉の原型となった。舶用炉は炉心を小さくするため、高濃縮または発電用より濃縮度の高いウランをステンレスかジルカロイで被覆した酸化物燃料を使う。構造上の種類としては、発電用と同じように圧力容器外に蒸気発生器をもつ分離型と、遮蔽体が小さくてすむように改良された圧力容器内に蒸気発生器をもつ一体型、およびその中間的構造をもつ半一体型の炉がある。[青柳長紀]

世界の原子力船

原子力船は、世界各国で建造されたが、最近では、ロシアの原子力船だけが就航中である。
(1)レーニン号とロシアの原子力船 レーニン号は、旧ソ連が砕氷船として1956年に起工、59年に完成した世界最初の原子力船である。30年間、約65万海里の航行ののち89年に退役した。ロシアの原子力砕氷船は、現在アルクチカ号など7隻が就航中であるが、その他砕氷能力をもった原子力貨物船セブモルプーチ号も就航している。94年から砕氷船ウラル号が建造中であるが資金難のため完成が遅れている。
(2)サバンナ号 アメリカでは軍用の艦船の建造は古いが、平和利用の船としては1962年に貨客船サバンナ号が完成した。この船は8年間に約45万海里、27か国の78の港を訪問した。その後、目的を達成したとして、炉心から燃料を取り出し、チャールストン港に係船された。
(3)オットハーン号 実験船として1963年に起工、68年に完成した旧西ドイツの原子力船。一体型原子炉を搭載したのが特徴で、実験航海後は鉱石運搬船として第一次燃料で約25万海里を航行した。72年に第二次の改良炉心を装荷したのちも順調に運行し、完成後約60万海里の航行ののち、79年、運行経費の上昇のため運行を停止、燃料を抜き取り、ハンブルク港に係留された。[青柳長紀]

日本の原子力船

原子力船「むつ」は、日本原子力船研究開発事業団により、当初海洋観測船として計画されたが、建造会社がないため、船体と原子炉を別会社が受け持ち特殊貨物船として建造された。船体は1968年に起工、69年進水、定係港の青森県むつ市大湊(おおみなと)港に回航、そこで原子炉関連施設を搭載して72年に完成した。74年8月、外洋の尻屋崎(しりやざき)東方800キロメートルの公海上で出力上昇試験中放射線漏れをおこしたため、長崎県の佐世保(させぼ)港で遮蔽体などの改修工事を行った。放射線漏洩(ろうえい)の原因は、原子炉圧力容器と一次遮蔽体との間を放射線が漏れるストリーミングによりおこったもので、遮蔽体の追加工事をした。計画から大幅に遅れて、90年(平成2)に定係港をむつ市関根浜港に移し、事業団を統合した日本原子力研究所が、用途を実験船にかえて出力上昇試験と海上試運転を実施し、合計56日間、約1万2900海里を航行した。その後、91年に1次から4次の実験航海で110日、約3万4700海里を航行し、92年に解役された。
 当初「むつ」の建造を1971年末までに完了するという事業団の計画が、20年近く遅れた原因は、技術的に経験のない舶用炉を国産で建造したことにもよるが、それ以上に、船体と原子炉が別会社で独立につくられるなど総合的な責任体制がとられない政府や事業団の開発体制の欠陥のためである。74年の放射線漏れ事故を機会に、原子炉の安全審査体制と原子力開発体制の欠陥が問題となり、原子力安全委員会ができた。
 「むつ」の船体は、解役後大型海洋観測船へ改造され、船体から撤去した原子炉施設は、日本原子力研究開発機構(2005年10月日本原子力研究所と核燃料サイクル開発機構が統合して発足)むつ事業所が廃止措置を行っている。[青柳長紀]
『安藤良夫著『原子力船むつ――「むつ」の技術と歴史』(1996・ERC出版)』

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