改訂新版 世界大百科事典 「放射線遮蔽」の意味・わかりやすい解説
放射線遮蔽 (ほうしゃせんしゃへい)
radiation shielding
不必要な放射線を,物体で遮ったり,減らすことをいう。体外からの放射線を防護する方法は,線源からの距離を大きくとり,線源の近くに滞留する時間を短くし,さらに線源と人体との間に遮へいを置くことである。これを防護の3原則という。遮へいは,放射線の物質による吸収あるいは散乱を利用して,被曝線量を低減させる方法で,他の二つに比べてより積極的な方法である。
放射性物質からのα線は紙1枚で止めることができるので遮へいは容易である。1~10MeVのエネルギーを有するβ線は,0.5~10cmの厚さのプラスチックで完全に吸収できる。β線を遮へいする場合,原子番号の高い物質を用いると,制動放射として知られているX線を放出する。X線,γ線は透過力が大きく,遮へいは容易ではない。昔から安価で吸収効率の大きい鉛がX線,γ線の遮へいに用いられている。構造上の強度や熱に対する抵抗性を要する場合には,鉛と同様に原子番号の大きいタングステンなどが用いられる。中性子の遮へいは,中性子がエネルギーによって物質との相互作用が異なるため複雑である。高速中性子を鉄など原子番号の大きい物質により減速させ,さらに水など水素含有物で減速させ,熱中性子にしてから,水素,カドミウムなどで吸収する方法がある。X線,γ線や中性子など透過力の大きい放射線の遮へいに関しては次式が用いられる。
D=D0Be⁻μx
ここでD0は遮へいがないときの問題とする点での放射線の線量,xは遮へい体の厚さ,μはX線,γ線では線吸収係数,中性子では除去断面積など,Bは再生係数である。
執筆者:丸山 隆司
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報