原子力潜水艦(読み)ゲンシリョクセンスイカン(英語表記)nuclear powered submarine

デジタル大辞泉 「原子力潜水艦」の意味・読み・例文・類語

げんしりょく‐せんすいかん【原子力潜水艦】

原子力を推進機関に利用した潜水艦。1954年に進水した米国のノーチラス号が最初。原潜。

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精選版 日本国語大辞典 「原子力潜水艦」の意味・読み・例文・類語

げんしりょく‐せんすいかん【原子力潜水艦】

〘名〙 原子力機関を主機関として航走する潜水艦。在来の潜水艦に比べて、潜航性能にすぐれる。原潜。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「原子力潜水艦」の意味・わかりやすい解説

原子力潜水艦
げんしりょくせんすいかん
nuclear powered submarine

原子力推進機関を主機関として航走する潜水艦。核分裂エネルギー動力源とするため、大気と絶縁した長時間航行が可能で、燃料消費量がきわめて少なく、1回の燃料装入で数年間、10万海里以上の航行を維持しうる大出力を出せるため、在来型船型でも20ノット以上、涙滴型(るいてきがた)船型では30~35ノットの連続水中高速航行が可能などの特徴がある。

[阿部安雄]

在来型潜水艦との差異

前記の特質から、原子力潜水艦は任意の期間、潜航状態で行動可能な「真の潜水艦」となり、大西洋や北極海の潜航横断、世界一周潜航など幾多の画期的な航海を行って、その真価を立証した。原子力潜水艦は在来型潜水艦の改良型ではなく、まったく新しい潜水艦とみるべきで、現在の軍艦中もっとも威力を発揮する、事実上の主力艦である。しかし、建造には高度の技術と高価な費用を要するので、現在、原子力潜水艦を保有している国はアメリカ、ロシアイギリス、フランス、中国の5か国のみで、ほかにインドが2010年時点で建造中である。

[阿部安雄]

沿革

1954年、アメリカで完成したノーチラスNautilusが世界最初の原子力潜水艦である。加圧水冷却炉を搭載し、就役後は、きわめて満足すべき成果を示した。ついで原子炉の小型軽量化を期待して、金属(ナトリウム)冷却炉搭載のシーウルフSeawolf(前代)が建造されたが、原子炉不調のため、以後の艦はほとんど加圧水冷却炉を用いるようになった。続いて1957年に初の実用艦スケート級Skate Classが完成、ついで涙滴型船型を採用したスキップジャック級Skipjack Classが竣工(しゅんこう)、速力30ノットを超す最初の水中高速潜水艦となった。

 これと前後してソ連が、またほかの国はそれより遅れて原子力潜水艦の建造に着手した。原子力潜水艦は実用段階に入ると、在来型潜水艦と同様に、攻撃型潜水艦、巡航ミサイル潜水艦、弾道ミサイル潜水艦の3艦種が建造されるようになった。

[阿部安雄]

攻撃型潜水艦

1961年、アメリカで高性能ソナーとサブロック対潜ミサイルを装備し、300メートル級の深々度潜航能力と30ノット以上の高速力を有するスレッシャー級Thresher Classが出現、以後同国のみならず他国の同艦種の基本型となった。ついで大出力炉を搭載、高速化を図ったロサンゼルス級Los Angeles Classが1976年に完成、以後量産され、アメリカ攻撃型潜水艦の主力艦となった。続いて1996年に各性能を大幅向上させたシーウルフ級Seawolf Classが完成したが、あまりにも高価なため3隻建造にとどめ、現在は性能をやや犠牲にして建造費低減を図り、沿岸海域作戦への対応能力を強化したバージニア級Virginia Classを建造し、2004年以降6隻が就役、なお6隻が建造、計画中である。ロシアでは、ソ連時代の1958年にノベンバー級November Classを完成させて以来、アメリカの艦と類似したビクターⅠ、Ⅱ、Ⅲ級Victor Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ ClassおよびアクラⅠ、Ⅱ級Akula Ⅰ、Ⅱ Classを建造し、1986年から就役し始めた後者は静粛性がアメリカ艦なみ、あるいは、それ以上に向上した。現在はさらに能力向上を図り、射程300キロメートルのSS-N-27巡航ミサイルを装備した大型多目的攻撃潜水艦ヤーセン級Yasen Classが建造され、1番艦セベロドビンスクSeverodvinskが2010年に完成、就役とされている。イギリス、フランス、中国もこの艦種を少数隻保有し、イギリスとフランスはさらに新型艦を建造中である。2010年時点の各国の最新艦の能力は、潜航深度450~610メートル、水中速力30~35ノット程度とみられる。しかしソ連が1970年に完成したアルファ級Alfa Classはこれを大幅に上回り、チタン船殻材、金属冷却大出力原子炉などの採用により潜航深度を700メートル、水中速力を42ノットとした。さらにその後継として建造されたシエラⅠ級Sierra Ⅰ Class(1984年完成)および改型のシエラⅡ級は、大型化し加圧水型原子炉を搭載、水中速力は34から32ノットに低下したが、潜航深度は750メートルに増大している。

[阿部安雄]

巡航ミサイル潜水艦

アメリカ空母機動部隊攻撃用につくられたロシア独得の艦種。SS-N-3(射程450キロメートル)6~8基搭載のエコーⅠ、Ⅱ級Echo Ⅰ、Ⅱ Classが1960、1961年に完成したが、ミサイルの遠距離誘導手段に欠け効果的でなく、以後は短距離ミサイル装備艦が建造された。その後ミサイル誘導技術、手段の向上を図り、1982年にふたたび長射程のSS-N-19(射程550キロメートル)24基を搭載したオスカーⅠ、Ⅱ級Oscar Ⅰ、Ⅱ Class(水中排水量2万0400~2万2500トン)を登場させた。冷戦終結後は当初任務の必要性が薄れ、ミサイルを対地攻撃重視型に改め、地域紛争対応能力をもたせているが、この艦種の後継艦は計画されていない。アメリカは1960年以降このタイプの艦を建造していなかったが、2003年から一部のオハイオ級Ohio Class弾道ミサイル潜水艦を、トマホーク・ミサイル(射程約1000キロメートル)154基搭載の巡航ミサイル潜水艦に改造し、2006~08年に再就役させた。そのほか1980年代前半からスタージョン級Stargeon Classおよびロサンゼルス級攻撃型潜水艦に、戦略核攻撃も可能なトマホーク・ミサイルの搭載を開始し、以後の新造艦(改ロサンゼルス級、シーウルフ級、バージニア級)にも装備して、巡航ミサイル潜水艦の能力を兼備させている。

[阿部安雄]

弾道ミサイル潜水艦

隠密性に優れた原子力潜水艦は、戦略弾道ミサイルのプラットホームとして最適であり、1959年アメリカで完成したポラリス・ミサイル16基搭載のジョージ・ワシントン級George Washington Classで、ポラリス潜水艦などの弾道ミサイル潜水艦の基本型が確立した。引き続き改良型が建造され、ラファイエット級Lafayette Classは、のちに、高性能なポセイドン・ミサイル(射程約6000キロメートル)に換装され、さらに一部の艦はより威力のあるトライデントⅠ・ミサイル(射程約7800キロメートル)を搭載、トライデント潜水艦となった。

 ソ連は1967年に、ポラリス潜水艦に類似したヤンキー級Yankee Classを完成したのち、1970年代から1980年代初期にかけて長射程のSS-N-8(射程約7900キロメートル)、SS-N-18(射程約6500キロメートル)ミサイル搭載のデルタⅠ、Ⅱ、Ⅲ級Delta Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ Classを順次に登場させ、隻数と射程でアメリカをしのぐ状況となった。1980年代に入り、アメリカはトライデントⅠあるいはトライデントⅡ・ミサイル(射程約1万2000キロメートル)24基搭載のオハイオ級Ohio Classを、ソ連は高性能のSS-N-23ミサイル(射程約8300キロメートル)を装備したデルタⅣ級や、潜水艦史上最大のタイフーン級Typhoon Class(水中排水量2万6500トン、射程8300キロメートルのSS-N-20ミサイル20基を搭載)を登場させ、それぞれ、両国の主力艦として重きをなしてきた。

 2010年時点で、ソ連崩壊後のロシアは次期弾道ミサイル潜水艦として、新型のプラヴァミサイル(射程8300キロメートル)16基搭載のボレイ級Borey Class 3隻を建造しており、1番艦が公試運転中となっている。イギリスとフランスは弾道ミサイル16基搭載艦を、中国は12基搭載艦を少数隻保有し、インドが短距離弾道ミサイル(射程700キロメートル)12基搭載艦を建造中である。

 原子力潜水艦の発達には、高耐力材料、水中高速可能な船型、推進器、静粛航行技術、慣性航法装置、各種通信、指揮・管制装置、超遠距離ソナー、空気清浄装置などの飛躍的な進歩が大きく寄与している。

[阿部安雄]

『『世界の艦船増刊第18集 潜水艦 今と昔』(1985・海人社)』『野木恵一著『原子力潜水艦を開発せよ』(1985・サンケイ出版)』『ノーマン・ポルマー著『原子力潜水艦』(1985・朝日ソノラマ)』『堀元美著『潜水艦』(1987・原書房)』『堀元美・江畑謙介著『新・現代の軍艦』(1987・原書房)』『『世界の艦船第428号 特集 原潜の進化』(1990・海人社)』『『原子力潜水艦』(1991・心交社)』『トム・クランシー著『トム・クランシーの原潜解剖』(1996・新潮社)』『『世界の艦船第505号 特集 潜水艦』(1996・海人社)』『『世界の艦船第547号 特集 潜水艦のすべて』(1999・海人社)』『坂本明著『大図解 世界の潜水艦』(1999・グリーンアロー出版社)』『『現代の潜水艦』(2001・学習研究社)』『デーヴィド・ミラー著『世界の潜水艦』(2002・学習研究社)』『『世界の艦船第632号 特集 原潜の50年』(2004・海人社)』『『世界の艦船増刊第68集 世界の潜水艦』(2005・海人社)』『『世界の艦船第719号 特集 原子力潜水艦』(2010・海人社)』『Stephen SaundersJane's Fighting Ships 2010-2011(2010, Jane's Information Group)』


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百科事典マイペディア 「原子力潜水艦」の意味・わかりやすい解説

原子力潜水艦【げんしりょくせんすいかん】

原子力を動力源とする主機をもつ潜水艦。1回の核燃料装填(そうてん)により強大な出力で2年以上の長期の行動が可能で,潜航能力なども在来の潜水艦に比べ飛躍的に向上した。すなわち機関は運転に酸素を必要とせず,自家発電電力で艦内空気の清浄化,飲料水製造ができること,円形断面の涙滴(るいてき)型船体の採用による構造強度の増大などにより,50日以上の連続潜航,数百mの潜航深度,30ノット以上の水中速力などを実現,これに核ミサイルその他の強大な兵装を合わせ,今日の海軍力の主力となり,国際戦略にも重大な影響を及ぼした。米国は1954年原子力潜第1号ノーチラス号を完成,その成功を基礎に戦略型・攻撃型原潜の建造を推進,1998年現在合計83隻を保有する。ロシアも両型合わせて66隻,英国は15隻,フランスは10隻をもち,中国も6隻保有。米海軍は1959年潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)積載の原潜SSBN(弾道ミサイル原子力潜水艦)を就役させ,数年後ソ連も同種の原潜を就役させた。SSBNは陸上のミサイル発射基地にくらべ空中査察などによる発見が困難で,敵の攻撃によって破壊されにくいため,以降戦略上重要な地位を占めるようになってきた。原子力潜水艦の事故は放射性物質による海洋汚染の危険がある。現在までに米ロ(旧ソ連)の7隻が沈没事故を起こしているとされる。2000年8月にはロシア海軍の原子力潜水艦クルスクが演習中にバレンツ海で沈没,乗組員118人全員が死亡した。→原子力船
→関連項目海軍軍艦ポセイドンポラリス

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「原子力潜水艦」の意味・わかりやすい解説

原子力潜水艦
げんしりょくせんすいかん
nuclear-propulsion submarine; atomic-powered submarine

核推進潜水艦とも呼ばれる。原子動力機関を備えた潜水艦。一般に軽水炉を使用し,炉内で発生した熱によって加熱された1次冷却水は熱交換器で2次冷却水を蒸気とし,タービンを回して推進器を駆動する。従来型潜水艦は,水上ではディーゼルエンジン,水中では電池を動力としていたので,推進機関関係に大きな重量容積を要したばかりでなく,電池の容量の制限のため水中行動力はきわめて劣弱であった (たとえば 20knで 30分,3knで 48時間程度の航続時間) 。原子力機関は空気を必要とせず,水上水中一元機関で,水中でも大馬力を発生しうるので,高速でも大きな抵抗となる造波抵抗を生じない水中で高速の発揮が可能となる。また核燃料は戦略的な意味からは,ほとんど無限の航続力を提供する (たとえば水中 30knで数万時間の航続時間をもっているが,人間の耐久力上,一般に約2ヵ月連続潜航を限度としている) 。原子力潜水艦は水上になんらの目標を暴露することなく,隠密性と大きな航続力とを同時に併有することができるようになった。この特性を利用して,弾道ミサイルを搭載する原子力潜水艦は非脆弱な戦略ミサイル体系となっており,また魚雷および巡航ミサイル装備の原子力潜水艦は,単独で大きな戦果をあげる対艦船攻撃体系となっている。アメリカ,旧ソ連をはじめイギリス,フランスなどで数多く造られ,中国も数隻保有している。最初の原子力潜水艦は 1955年1月に就航したアメリカの『ノーチラス』。中距離弾道ミサイルを搭載するポセイドン潜水艦,長距離弾道ミサイル「トライデント」を搭載し 80年代に就航したトライデント潜水艦と,対原子力潜水艦および水上艦艇攻撃用の攻撃 (戦術) 型潜水艦とがある。ロシア海軍には水中排水量2万 6500tという世界最大のタイフーン級弾道ミサイル原子力潜水艦もある (→タイフーン級潜水艦 ) 。

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