改訂新版 世界大百科事典 「参審制」の意味・わかりやすい解説
参審制 (さんしんせい)
抽選などにより一般市民から選ばれた数人の参審員(非常勤,法律の素人)が,裁判官(常勤,専門職)とともに裁判所の合議体を構成して事件を審判する制度。主としてドイツで発達したもので,ドイツの刑事手続における参審裁判所Schöffengerichtはその典型である。イギリス,アメリカを中心に発達した〈陪審制〉と同様に,法律の専門家ではない一般国民が裁判に関与する制度の一つに数えられる。なお,ドイツには,一定の種類の事件,例えば労働関係を扱う事件の裁判について,職業裁判官と労働者側,使用者側の経験を有する一般市民とが合議体を構成するなど,その道の経験者や専門家を裁判に関与させる制度もある。陪審制では事件の事実を陪審員が独立に認定し裁判官はこれを採用して結論を出すのに対し,参審制では参審員が裁判官とともに事実の認定,法律の適用のすべてに関与して,裁判官と合議のうえ裁判の内容を決定する。このように法律の素人に裁判官と同格の役割が与えられている点に特色があるが,それだけに参審員が裁判官の意見にひきずられやすいとの意見もある。日本の裁判制度には採用されていない。ただ家庭裁判所の家事審判における参与員の制度(家事審判法3条)や,簡易裁判所の民事事件における司法委員の制度(民事訴訟法279条)は,参審のように裁判官と同格で関与するものではないが,民間人を審理に立ち会わせてその意見を参考にする点で,参審制の趣旨に通じる面を持っている。また海難審判における参審員の制度(海難審判法14条)は,学識経験者が審判官と同格で審判に参与する点で参審制に類似している。
執筆者:酒巻 匡
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報