刑事訴訟手続において、広く一般の国民が、裁判官とともに責任を分担しつつ協働し、裁判内容の決定に主体的に関与することができる制度。2001年(平成13)6月の司法制度改革審議会意見書において、司法制度改革の一環としてその導入が提言されたもの。2004年5月に「裁判員の参加する刑事裁判に関する法律」(平成16年法律第63号)が成立し、2009年5月に施行された。
裁判員は、衆議院議員の選挙権を有する者のなかから(裁判員の参加する刑事裁判に関する法律13条)、1年ごとに無作為抽出によって裁判員候補者名簿が作成され、そのなかから事件ごとに無作為に選ばれる。しかし、一定の欠格事由および就職禁止事由等に該当する者(同法14条、15条)、不公平な裁判をするおそれがある者(同法17条、18条)は裁判員となることができない。また、理由を示さない不選任請求により決定があった者も、裁判員になることができない(同法36条)。他方、所定の辞退事由(たとえば、70歳以上の者)に該当する者は裁判員となることを辞退することができる(同法16条)。
国民が裁判員として参加することができる事件は、原則として、(1)死刑または無期の懲役・禁錮(きんこ)にあたる罪に係る事件、(2)法定合議事件(3人の裁判官による合議体で審判すべき事件)であって故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪に係るものである(同法2条)。これらの参加できる事件に該当する場合であっても、裁判員やその親族等に対して危害が加えられるおそれがあるような事件については、対象事件から除外されることがある(同法3条)。
裁判員は、参加した事件においては、証人に対する尋問(同法56条)、被告人に対する質問(同法59条)を行うことができる。裁判員は、裁判官とともに評決し、有罪・無罪の決定および刑の量定を行うが、裁判員の参加する合議体は、裁判官3人、裁判員6人で構成される(同法2条2項本文)。また、第1回公判期日前の準備手続(公判前整理手続。同法49条)の結果、被告人が公訴事実を認めている場合において、当事者に異議がなく、かつ、事件の内容等を考慮して裁判所が適当と認めるときは、その事件を裁判官1人と裁判員4人の合議体で取り扱うことができる(同法2条3項・4項)。
刑の量定などは、裁判官と裁判員の合議によるものとし(同法6条1項)、評決は裁判官と裁判員の過半数の意見で行われる(同法67条1項)。法令の解釈および訴訟手続に関する判断は、専門的な知識が必要であるため、裁判官の過半数の意見による(同法6条2項)。
裁判員に就任したものは、公判期日等への出頭義務(同法52条、63条)、守秘義務(同法9条2項)等を負うとともに、かかる義務に違反した場合その他一定の場合には、解任されることがある(同法41条)。また、裁判員には、旅費、日当等が支給される(同法11条)。
以上のように裁判員は裁判官とほぼ同等の権限をもって裁判に参加することになるので、裁判員に対する請託・威迫行為、裁判員の秘密漏洩(ろうえい)行為等は、刑事罰の対象となるし(同法106条~108条)、何人(なんぴと)も、氏名等の裁判員を特定できるような情報を公開してはならないし(同法109条)、何人も担当事件について裁判員に接触することは禁止されている(同法102条)など、裁判員としての地位を保護する仕組みがとられている。また、国民が裁判員として積極的に参加するうえで、裁判員となる者の雇用主は、従業員が裁判員の職務のために仕事を休んだことその他裁判員になったことを理由として、解雇その他不利益な取扱いをしてはならない(同法100条)。
このように、裁判員制度は、専門家である裁判官と非専門家である裁判員が相互のコミュニケーションを通じて、それぞれの知識・経験を共有し、その成果を裁判内容に反映させるところに大きな意味があり、具体的な事件に一般国民が有する健全な社会常識を反映させるところに、その意義が認められる。
[加藤哲夫]