翻訳|dipole
(1)電気双極子 大きさが等しく符号が反対の二つの電荷が並ぶ配置を電気双極子という(図1-a)。単に双極子といった場合には電気双極子を指すことが多い。二つの電荷を+q,-q,電荷間の間隔をdとするとき,積p=qdを双極子モーメントという。-qから+qへ向く長さpのベクトルpもよく用いられ,これも双極子モーメントと呼ばれる。双極子がクーロンの法則に従ってつくる電場の形を図1-bのbに示す。電場の強さは双極子モーメントpに比例し,また双極子から離れると,双極子からの距離の3乗に反比例して減少する。いろいろな電荷分布の中で,単一の点電荷に次いで簡単な分布が電気双極子である。塩化水素H⁺Cl⁻のように正負のイオンからなる2原子分子は電気双極子の例である。水分子のような三つ以上の電荷の分布の場合でも,全電荷が0ならば,この分布をいくつかの双極子モーメントp1,p2,……の集りとみることができる。ベクトル和p=p1+p2+……をこの分布の双極子モーメントという(図2)。直線状のアンテナは,各瞬間におけるその上の電荷分布が双極子型であるため,ダイポール(=双極子)アンテナと呼ばれる。双極子モーメントが時間的に変化(振動)すると,電磁波が放射される。これを双極子放射と呼ぶ。
(2)磁気双極子 図3-aのような環状電流がビオ=サバールの法則に従ってつくる磁場(図3-b)は,環状電流から離れたところでは,電気双極子がつくる静電場(図1-b)と同じ形をもつ。すなわち,磁場の源としての環状電流は,電場の源としての電気双極子とほぼ同じ役割をする。そのため環状電流を磁気双極子と呼ぶ。電流をI,環状電流が囲む面の面積をSとするとき,積m=ISを磁気(双極子)モーメントという。ベクトルとして考えるときは,長さmをもち,環状電流が囲む面の法線nの方向を向くベクトルmを磁気モーメントという。電気双極子による電場と磁気双極子による磁場の対応は,双極子モーメントpをmでおきかえれば得られる。原子の内部には電子の運動による環状電流があり,したがって原子は一般に磁気モーメントをもつ。また静止している電子自身も,環状電流の磁場と同じ形の磁場をつくる。すなわち,電子は一定の大きさの磁気モーメントをもつ。その説明は量子力学のディラック方程式によらねばならないが,直観的には,電子のスピンは一種の自転であり,スピンが環状電流と同じ働きをするものと解釈できる。電子のスピンに伴う磁気モーメントは,磁石のような物質(磁性体)がつくる磁場の主要な原因である。
執筆者:加藤 正昭
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大きさが等しく符号が反対の二つの単極+q、-qの組みを考えて、-qから+qへの位置ベクトルをM、Mの長さをmとする。q→∞、m→0のときにベクトルp=q・Mの大きさpが一定に保たれるなら、この単極の組みを双極子とよび、pを双極子のモーメントという。双極子は周囲の空間に双極子場をつくる。それは位置rで定まるポテンシャル=p・r/r3から一意的に導かれる。を双極子ポテンシャルとよぶ。以上は数学的定義であるが、物理的にはかならずしもこのような単極の対(つい)が現実に対応しているわけではない。どんな系でも、電荷分布のようすにかかわらず、そこからある程度以上隔たった場所で前記と同一のポテンシャルで定まる場が観測されれば、これを一つの双極子と考えて取り扱うことができる。一般に、電荷の分布が空間的または時間的に一定の向きをもつ場合、その電荷分布は双極子場をつくる。空間的な向きの場合、双極子は電場であって、電荷分布を電気的双極子と考えることができる。時間的な向きの場合、すなわち電流のように電荷分布が動いている場合には双極子場は磁場であって、このような系を磁気双極子と考えることができる。
対称性の低い分子は一般に電気双極子である。このように分子の構造に起因するものを永久双極子という。これに対して、分子や原子に外部から電場をかけて電子の空間分布をゆがめることによって発生する双極子を誘起双極子という。多くの素粒子は、その内部のようすが未知であるけれども、周囲に磁気的な双極子場をつくっているので、これを磁気双極子と考えることができる。素粒子の磁気双極子は、素粒子の種類によって定まった固有のモーメントをもっており、とくにスピンとよばれる。
[安岡弘志]
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
有限の距離離れた等しい大きさの正負の電荷の対をいい,詳しくは電気双極子という.電荷の大きさをQ,距離をlとして,
μ = Ql
を双極子モーメントという.磁気の場合にも同様に磁気双極子が定義される.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
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