ディラック方程式(読み)ディラックほうていしき(英語表記)Dirac equation

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ディラック方程式」の意味・わかりやすい解説

ディラック方程式
ディラックほうていしき
Dirac equation

量子論と特殊相対論の要求を両方とも満たすものとして,ポール・ディラックが提唱した電子の基礎方程式。電子だけでなく,一般にスピン 1/2の素粒子はこの方程式を満足すると考えられている。最も標準的な表現では,自由電子に対するディラック方程式は次のように書くことができる。
ただし,c は真空中の光速度,hプランク定数m は電子の質量,p は運動量演算子(h/2πi)∂/∂xiを表す。αおよびβは 4行 4列のエルミート行列で,ディラック行列とも呼ばれ,次の関係を満足する。
これに対応して,波動関数ψも四つの成分をもち,(ctxyz)の関数で表現され,スペクトル線超微細構造と電子のスピンとを導き出すことができる。しかし,電子が負の運動エネルギーの状態に落ち込む可能性も生じる。この点はディラックの提唱した空孔理論によって解決され,かえって陽電子の存在を予言し確認されることになり,ディラック方程式の正当性が確立された。ディラック方程式 (1)に
をかけて (2)を用いれば,ψがクライン=ゴルドン方程式を満たさねばならないことがわかる。

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