物質内に存在する正・負の電荷が反対向きにずれ合う現象。電気分極とも、あるいは単に分極ともいう。
物質全体としての電気分極の存在は、物質の中に多数の電気双極子(ダイポール)が存在していることに対応している。電気双極子は正・負の点電荷が近い距離に一対をなして存在しているものである。 に結晶での例を示すように、物質の中にこのような電気双極子が多数存在すると、双極子は少なくとも一直線上では同じ向きを向くほうが静電エネルギーが少なくてすむから、しばしば物質全体としても正・負の電荷がずれていることになるように、双極子の配列に規則性が存在する。一つの電気双極子を構成する正・負の点電荷の絶対値がq、負から正へ引いた空間ベクトルがδであるとき、μ=qδはこの双極子の双極子モーメントとよばれる量である。物質の中に存在する双極子のモーメントの総和の単位体積当りの値
をこの物質の(電気)分極の強さ、または単に(電気)分極という。
このように、(電気)分極ということばは現象と量との2通りの意味に使われる。このPの式でμiはi番目の双極子のモーメントである。分極は終始巨視的な量である。双極子は本来は巨視的な電磁気学の概念であるが、物質の電気分極現象すなわち誘電性を微視的に議論するときには、物質の中に存在する双極子は物質の中に存在する正・負の電荷をもった微粒子(電子、イオンなど)によってつくられると考える。
電気分極には誘起分極と自発分極とがある。前者は、物質に電界をかけるとき、電界によって物質に生じる分極である。後者は、電界がかかっていない状態においても、物質が本来もっている分極である。自発分極をもたない物質がもちうる分極は誘起分極だけであるが、自発分極をもつ物質は電界のもとでは自発分極と誘起分極との両方をもつ。
一方、電気分極は、これを生じる微粒子が何であるかにより、次の3種類に分けられる。
〔1〕電子分極 物質を構成している各原子において、原子核の周りに対称的な電子軌道(電子雲)が存在して、原子は双極子モーメントをもたない。電界Eがかかると、電子雲は原子核と逆向き(電界と逆向き)に変位して、原子に双極子が生じる。各原子に生じたこのような双極子によってつくられる分極が電子分極である。
の(1)に示すように、自然状態すなわち電界E=0のときには、〔2〕イオン分極 化合物においては、これを構成している原子が正・負のイオンとなっていることが多い。このとき、
の(2)に示すように、自然状態E=0で双極子が存在しない場合にも、電界がかかると正・負イオンが相対変位をして分極が発生する。これがイオン分極である。イオン分極が自発的に存在する場合も少なくない。〔3〕永久双極子分極 分子には、HCl、H2Oなどのように、電界がかかっていないときにも、双極子をもっているものがある。このような分子は極性分子といわれ、このような双極子は永久双極子といわれる。永久双極子はOH-のような(イオン)基にも存在しうる。物質を構成する微粒子の全部または一部が極性分子であるとき、自然状態で、分子の配列がまったく不規則であるため分極は存在しない場合と、分子の配列に規則性があって分極が存在する場合とがある。後者の分極が永久双極子分極である。前者の場合でも、電界がかかると、この分極が誘起される。
[沢田正三]
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…誘電分極dielectric polarizationともいう。誘電体を電場の中におくと,電場内の正電荷は,電場の方向に,負電荷はそれと逆の方向に,微小距離だけ相対的に変位する。…
※「誘電分極」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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