磁気双極子は一般の双極子で、単極の対+q、-qを磁気単極と考えて定義される。しかし電気双極子における単極の場合と違って、今日までのところ磁気単極の実在は認められていないので、この定義は形式的、仮想的な意味しかもたない。現実の磁気双極子の原因には二つの場合がある。その原因の一つは、荷電粒子の運動、すなわち電流である。静止している荷電粒子は周囲の空間に電場をつくるが、動いている荷電粒子は電場と同時に磁場もつくることが知られている(これは電磁場が相対論的な場であることの表れとして説明される)。たとえば円流動なら、この磁場はある距離より遠方では双極子場で表されて、対応する双極子モーメントmは電流Iと円の面積Sの積I・Sに比例する大きさと、円に垂直な向きとをもつ。もう一つの原因は素粒子の磁気双極子である。これは素粒子の静止質量と同様に素粒子の種類を特徴づける一つの属性であって、スピンとよばれる。スピンのモーメントはh/2π(hはプランク定数)を単位とする不連続な大きさしかとることができない。その向きは実空間では定義されないが、磁場中において観測することができる。いずれにしても磁気双極子は、その実体のあいまいさや、原因の抽象性にもかかわらず、むしろ外界との相互作用を通してはっきりと認識できる。いずれの原因による磁気双極子でも、周囲の空間に、位置rで定まるポテンシャル=m・r/r3から導かれる磁場(双極子場)をつくる。また磁気双極子は、外界から加えられた磁場と相互作用する。この相互作用のエネルギーはゼーマン・エネルギーとよばれる。
[安岡弘志]
『宮原恒昱著『電磁気学入門』(2002・共立出版)』▽『高村秀一著『理工学のための電磁気学入門』(2002・森北出版)』
…これを双極子放射と呼ぶ。(2)磁気双極子 図3のaのような環状電流がビオ=サバールの法則に従ってつくる磁場(図のb)は,環状電流から離れたところでは,電気双極子がつくる静電場(図1のb)と同じ形をもつ。すなわち,磁場の源としての環状電流は,電場の源としての電気双極子とほぼ同じ役割をする。…
…(3)スペクトルには電子状態のほかにミクロな動的状態に関する情報も豊富に含まれている。磁気双極子の立体的な配向性や,その乱れ,あるいは分子運動やミクロブラウン運動に伴う配向性の動的変化を反映して,シグナルの形が大きく変化するため,スペクトルの線形から常磁性中心の動的状態も解析できる。
[原理]
古典論のモデルを手掛りにしてESRの原理を説明する。…
※「磁気双極子」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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