改訂新版 世界大百科事典 「双生隅田川」の意味・わかりやすい解説
双生隅田川 (ふたごすみだがわ)
人形浄瑠璃。時代物。5段。近松門左衛門作。1720年(享保5)8月大坂竹本座初演。出勤の太夫は竹本播磨少掾,竹本頼母,2世竹本政太夫ほか。能《隅田川》を骨子とし,宇治加賀掾の浄瑠璃《隅田川》などによったが,吉田家のお家騒動に霊木のたたりをからませ,鯉魚(りぎよ)の名画の霊怪談を付加するといった怪奇性の強い点に特色がある。吉田少将行房とその愛妾班女(はんじよ)との間に,梅若・松若の双生児がいた。行房は舅の常陸大掾百連(ももつら)の計略にかかって死に,松若は天狗にさらわれる。梅若は流浪して東国に来たり人買い猿島惣太(実は吉田の旧臣淡路七郎)の折檻で息絶える。七郎は,若君を殺したと知り,天狗となって主家に尽くそうと自害する。班女は狂乱してわが子の行方を尋ね隅田川に至り,梅若の塚を弔う。折しも七郎の化現した天狗が松若を連れて現れ,母の手に戻す。北白河で花火に興じる百連を討ち取り,吉田家は再興する。三段目〈惣太住家〉での七郎の苦衷とその最期,四段目〈隅田川原〉の班女の愁嘆が見せ場だが,幻妖味に富み,景事が盛り込まれた変化の多い作品。後の歌曲にも影響を及ぼしたが,歌舞伎では題材・構成の点で〈隅田川物〉に与えた影響が大きい。人形浄瑠璃では1973年9月東京の国立劇場小劇場で三,四段目が復活上演され,歌舞伎では76年10月東京の新橋演舞場でほとんど全段が改作上演された。
執筆者:戸部 銀作
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報