歌舞伎,人形浄瑠璃の一系統。能《隅田川》を原点とする梅若伝説を扱った作品群をいう。観世元雅の作になる能《隅田川》がどういう素材に拠って作られたかは不明である。当時,人買いに子をさらわれ悲嘆にくれた母親の話は多くあったと思われる。そうした巷説を元に,《伊勢物語》の業平東下りの物語をからませたのは,おそらく元雅の創作であろう。いわゆる梅若伝説も,この能以後に発生,流布したものである。《松平大和守日記》によれば,1661年(寛文1)以前に説経の正本《すみ田川》が存在したこと,88年(元禄1)に《今角田川》四番続きが上演されたことがわかる。歌舞伎系統では,1701年3月江戸中村座の《出世隅田川》(初世市川団十郎作)の狂言本が現存する最古のものである。浄瑠璃系統でも,宇治加賀掾,山本土佐掾の正本に《すみだ川》が見られるが,20年(享保5)8月に大坂竹本座で上演された近松門左衛門作の《双生隅田川(ふたごすみだがわ)》は,仮名草子《角田川物語》(1656)を脚色したものといわれ,それまでの〈隅田川物〉を集大成したものともいわれる。この作品において,《隅田川》のほかに,同じく狂女物の能《班女(はんじよ)》に見られる吉田少将とその愛人の花子(のちに班女と呼ばれる)を軸にした吉田家のお家騒動を背景にして,梅若・松若の兄弟や人買い惣太などが活躍する構成ができ上がった。いずれにせよ,能の狂女物としての性格からしだいに離れ,お家物狂言として展開していくが,隅田川という名によるためであろうか,江戸の歌舞伎狂言が圧倒的に多い。《双生隅田川》以後,江戸歌舞伎では《法界坊》(《隅田川続俤(ごにちのおもかげ)》),《忍ぶの惣太》(《都鳥廓白浪(みやこどりながれのしらなみ)》),さらに《清玄桜姫》(《隅田川花御所染》《桜姫東文章》)とも結合していく。また,梅若丸の命日が3月15日とあるところから,隅田川物は弥生狂言として上演されることが多かった。そのため,正月狂言の後日という関係から,曾我物の趣向ともからまって複雑化していった。
この系統に属する音曲,舞踊も多い。最も古い河東節・一中節掛合《隅田川舟の内》(1722ごろ)をはじめ,一中節《尾上雲賤機帯》,長唄《八重霞賤機帯》,常磐津・長唄掛合《角田川》,清元《隅田川》などが現存し,各流儀の振付がある。
執筆者:権藤 芳一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
歌舞伎(かぶき)・浄瑠璃(じょうるり)の一系統。能『隅田川』の梅若伝説を主題とする作品群をいう。元禄(げんろく)(1688~1704)ごろから多くの作が上演されたが、仮名草子『角田川(すみだがわ)物語』を脚色した近松門左衛門の人形浄瑠璃『雙生(ふたご)隅田川』が1720年(享保5)8月大坂竹本座で初演されて以後、これに登場する吉田少将(よしだのしょうしょう)と愛妾班女(あいしょうはんじょ)、双生児(ふたご)の兄弟梅若・松若、人買猿島惣太(さるしまそうだ)実は旧臣淡路七郎などをめぐる御家(おいえ)騒動の話が、この系列の基礎となった。梅若の命日が3月15日とされるところから、歌舞伎では弥生(やよい)狂言としてつくられることが多く、代表的な作品に、法界坊を活躍させた奈河七五三助(ながわしめすけ)作『隅田川続俤(ごにちのおもかげ)』、清玄桜姫と結合させた4世鶴屋南北作『隅田川花御所染(はなのごしょぞめ)』『桜姫東文章(さくらひめあずまぶんしょう)』、惣太を主役にした河竹黙阿弥(もくあみ)作『都鳥廓白浪(みやこどりながれのしらなみ)』などがある。
能の筋(すじ)をなぞって子を失った母の狂乱を描く音曲・舞踊劇も多くつくられ、河東(かとう)節・一中(いっちゅう)節掛合いの『隅田川舟の内』をはじめ、一中節の『尾上雲賤機帯(おのえのくもしずはたおび)』、長唄(ながうた)の『八重霞(やえがすみ)賤機帯』、常磐津(ときわず)・長唄掛合いの『角田川』、清元(きよもと)の『隅田川』などが有名である。
[松井俊諭]
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