船が通過するとき,橋桁を動かして船の航行に支障のないような構造とした橋。これに対し,ふつうの橋を固定橋という。運河の多いオランダなどでは現在も可動橋がつくられることが多いが,一般には陸上,水上の交通量の増加に伴い,双方の交通遮断を必要とするこの種の橋はしだいに姿を消しつつある。可動橋には種々の構造が考えられるが,大別すると跳開橋,旋回橋,昇開橋の3種がある。軽量であることが求められるので鋼橋とするのが原則で,なかには橋桁を軽金属材料でつくるものもある。長支間の橋に適用するのは無理である。
(1)跳開橋 いわゆる跳ね橋と呼ばれるもので,橋脚上の回転軸を中心として橋桁を上方に回転させ,船舶航行のための空間をつくる形式。支間中央に切れめがあって,橋桁の各半分が両側へ跳ね上がる二葉式と,支間の片側のみに回転軸があって,桁全体を一体として跳ね上げる一葉式がある。現在は可動橋として使われなくなったが,東京・隅田川の勝鬨橋(かちどきばし)(1940建)は前者,また愛媛県肱川にかかる長浜大橋(1935)は後者の例である。跳開橋は橋体とつり合いを保つ重錘を備えて開閉時の負担を軽くしているが,それでも橋面に風圧を受けることを考えるとかなり大きな動力を必要とする。しかし外見はふつうの橋に似て,しかも開橋時には船舶航行空間に制約を与えることが最も少ないので,可動橋中では最も使われることの多い形式である。(2)旋回橋 跳開橋が鉛直面内で回転するのに対し,旋回橋は橋脚上の回転軸を中心に水平面内に回転する。日本では天橋立の小天橋(1959)がその例であるが,海外にもきわめて少ない。他の形式に比し,水面上の空間を阻害する度合は最も大きい。(3)昇開橋 両側の橋脚上に塔を設け,これに沿って橋桁をケーブルで引き上げる。いわばエレベーター式である。船舶航行のための高さに制限を受けること,塔を設ける必要のあることが欠点である。日本では筑後川橋梁(1935)の例がある。
執筆者:伊藤 学
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
橋は一般には位置が大きく動かないように固定されているが、特殊な橋として、船舶航行のための空間をとるなどのために主桁(しゅげた)を可動構造としたものもある。これを可動橋という。これに対して一般の橋は固定橋である。なお、持ち運びのできる橋を可搬橋という。
可動橋には、橋桁が橋脚上の支点を中心に水平に旋回する旋回橋、橋脚上の支点を中心として鉛直面内に跳ね上がる跳開橋、橋桁全体がエレベーター式に上昇する昇開橋などがある。なお、連絡船などに岸壁から架け渡す乗船用や船車連絡用の可動桟橋も可動橋の一種である。
旋回橋は旋回時には片持(かたもち)構造となるので、橋脚や回転軸を大きくし、均衡を保つ必要がある。スエズ運河のエル・フェルダン道路鉄道併用橋(支間158.4メートルが等分に旋回する)や天橋立(あまのはしだて)の小天(こてん)橋(橋長36.6メートル)などがある。昇開橋は両側に塔を必要とするが、橋を上げる高さを船舶のマストの高さに応じて加減できる利点がある反面、塔柱、平衡錐(すい)を要する。オランダのカランド道路鉄道併用橋(支間67.8メートル)、筑後川(ちくごがわ)橋梁(きょうりょう)(橋長118.4メートル)などがある。跳開橋は構造が簡単で運転速度も大きく、もっとも普通の形式である。ロンドンのタワー・ブリッジ(支間61メートル)、東京・隅田(すみだ)川の勝鬨橋(かちどきばし)(支間44メートル)などがある。最近では橋が長大化して一般に高い桁下(けたした)空間が確保できるようになったことと、可動橋では橋が開いている間、橋上の交通が中断されるうえ、維持管理に経費がかさむので、桟橋などやむをえない場合を除いて可動橋はほとんど建設されていない。
[小林昭一]
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