改訂新版 世界大百科事典 「史料学」の意味・わかりやすい解説
史料学 (しりょうがく)
歴史家が過去を再構成するに当たっては,史料によってその証拠を明らかにしなくてはならない。一般に歴史的認識のもととなるべき素材を史料というが,歴史研究の基礎であるこの史料について,いかなる素材が史料となりうるかを検討し,その固有の性格を究明し,収集・分類の方法を探究するのが〈史料学〉である。史料の証拠物件としての信憑性・適切性を,内的・外的批判を通じて究明する〈史料批判〉の作業と並んで,歴史研究のもっとも基礎的な部分を形成する。何が史料となりうるかは,歴史家がいかなる問いを発するかによって決まるのであり,問いに先立って既成の史料が存在するのではない。19世紀に成立した実証主義歴史学は,文書史料が残りやすい国家史を主要な関心事としたこともあって,古文書・古記録万能主義の傾向を示し,文書史料によって確定しえない事がらは歴史研究の対象から排除するという錯誤に陥った。しかし,人類のうちには文字を用いない社会も存在するし,人間の生活のうちには文字によって記録されない部分も広範に存在する。現代の歴史学においては,それゆえ,多様な文化現象や民衆の生活,心性,さらには非文字社会の歴史をもとらえようとする歴史家の問いにこたえるべく,文書史料のほかに,遺物史料(住居址,民具など),図像史料(彫刻,絵画,挿絵,紋章など),音声史料(録音テープなど),伝承史料(習俗,説話など)といった多様な史料が積極的に用いられ,新しい史料学が模索されつつある。
執筆者:二宮 宏之
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報