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民具 みんぐ

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説

民具
みんぐ

日常生活の必要のために製作,使用される用具の総称。使用する人々自身の手作りになる素朴なものから職人の製作したものまであるが,近代工業による大量生産されたものは民具とはいわない。 1936年にアチック・ミューゼアムで作成した「民具蒐集調査要目」によると,民具は,衣食住に関するもの (家具,灯火用具,調理用具,飲食用具,食料および嗜好品,服物,履物,装身具,出産育児用具,衛生保健用具) ,生業に関するもの (農具,山樵用具,狩猟用具,漁労用具,紡織色染関係の用具と材料と製品,畜産用具,交易用具) ,通信運搬に関するもの (運搬具,行旅具,報知具) ,団体生活に関するもの (災害予防具,堂椀など) ,儀礼に関するもの (誕生から死にいたる人生儀礼に際して用いるもの) ,信仰とその行事に関するもの (偶像,幣帛類,祭供品および供物,楽器,仮面,呪具,卜具,祈願品) ,娯楽遊技に関するもの,玩具,縁起物,などに分類されている。

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デジタル大辞泉の解説

みん‐ぐ【民具】

一般民衆が昔から日常生活に使ってきた道具・器具の総称。

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百科事典マイペディアの解説

民具【みんぐ】

一般民衆が日常生活の必要から製作し使用してきた器物。近代的機械工業の生産によらない伝統的な器具類で,常民の物質文化として,精神文化の民俗とともに民俗学の2部門を構成する意味から民具と呼ばれる
→関連項目日本常民文化研究所民俗学

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世界大百科事典 第2版の解説

みんぐ【民具】

人々が生活の必要から製作・使用してきた伝統的な器具・造形物の総称。古くは土俗品,民俗品などと呼ばれていたが,1933‐34年ごろ渋沢敬三によって〈民具〉という言葉が使いはじめられ,当初は渋沢敬三の主宰するアチック・ミューゼアム(のち日本常民文化研究所と改称)の同人たちのあいだにとどまっていたが,今日ではひろく学術用語として学界・一般に定着している。アチック・ミューゼアムの《民具蒐集調査要目》(1936刊)において民具を〈我々の同胞が日常生活の必要から技術的に作り出した身辺卑近の道具〉と定義され,その定義が今日も日本における民具研究の根幹をなしている。

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大辞林 第三版の解説

みんぐ【民具】

人々が、日常生活や生業・儀礼その他の必要上作り出し使用してきた身辺の道具。

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(C) Sanseido Co.,Ltd. 編者:松村明 編 発行者:株式会社 三省堂 ※ 書籍版『大辞林第三版』の図表・付録は収録させておりません。 ※ それぞれの用語は執筆時点での最新のもので、常に最新の内容であることを保証するものではありません。

日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

民具
みんぐ

日本文化研究上の術語の一つで、一般庶民(常民)が日常、その生活の必要から製作あるいは使用している伝承的な器具・造形物の総称で、日本人の生活の成り立ちや変遷、日本の基層文化の構造や特質を研究するうえで欠くことのできない資料である。この語の創唱者は、日本常民文化研究所(旧称アチック・ミューゼアム、現神奈川大学日本常民文化研究所)を主宰した渋沢敬三で、1934年(昭和9)から35年の間に確定された。渋沢は「民具」を定立する以前は、これを「民俗品」といった。今日では「民具」が学界で広く認められている。[小川直之]

民具の領域

民具は、民俗学における精神文化に対する物質文化全般をさす語としても使われ、具体的内容は広範にわたっているが、「民具」が定立されて以降、当時からの生活様式の急激な変化などとも相まって、その定義・領域など全体的な再検討が必要と考えられる。ここでは、1936年にアチック・ミューゼアムから刊行された『民具蒐集(しゅうしゅう)調査要目』から民具の領域(概念)を示しておく。この書は日本の民具研究の出発点ともいえ、その後の研究に大きな影響を及ぼし、現在の民具の概念・分類の基礎となるものである。民具は「我々の同胞が日常生活の必要から技術的に作り出した身辺卑近の道具」であると定義し、8項目に大分類してその領域を示している。大要は次のようである。
〔1〕衣食住に関するもの
(1)家具(室内器具、寝具、保存用具等を含む) 風立(かざたて)(衝立(ついたて))、火鉢類、煙草(たばこ)盆、机、踏台(ふみだい)、各種戸棚、長持、鉤(かぎ)の類、銭箱、火棚、自在鉤、下駄(げた)箱、花筒、枕(まくら)、茣蓙(ござ)類、夜衾(よぶすま)、サッコリ布団、魚刺(さかなさし)、膳(ぜん)棚、お針道具など。
(2)灯火用具(灯火器および発火器、燃料の一部も加える) シデ鉢、灯台箱、行灯(あんどん)、燭台(しょくだい)、カンテラ、カンテラ台、提灯(ちょうちん)、蝋燭(ろうそく)、松脂(まつやに)蝋燭、附木(つけぎ)、火打箱、火打袋、松明(たいまつ)、火口箱(ほくちばこ)、火打石、火打鎌(がま)など。
(3)調理用具(一般台所用具中、主として調理に使用する道具を含む) 鍋(なべ)、釜(かま)、桶(おけ)、俎(まないた)、摺子木(すりこぎ)、練鉢(ねりばち)、包丁、豆腐製造器、粉挽(こなひき)道具、臼(うす)、杵(きね)、柄杓(ひしゃく)、塩壺(しおつぼ)、鍋敷、笊(ざる)、テッキ、鍋取りなど。
(4)飲食用具、食料および嗜好(しこう)品(一般飲食器具、その他茶道具、煙草道具を含む) 木地膳、箱膳、盆、茶通(ちゃつう)、椀(わん)、箸(はし)、印籠(いんろう)、メンパ、ワッパ、行器(ほかい)、茶桶、茶筅(ちゃせん)、茶杓、茶臼、煙草切道具、煙草盆など。
(5)服物(履き物を除く。一般服物のうち、地方的特色のある様式材料による晴着、常着(つねぎ)、労働着を含む。そのほか防寒、防雨、日覆(ひおい)の類も含む) 総括して材料には、藤布(ふじぬの)、麻布、綿製品、マダの繊維製品、カラムシ、葛楮布(くずふ)、獣皮、篠(しの)、棕櫚(しゅろ)、蒲葵(くば)、蒲(がま)、菅(すげ)、藺(い)、アスナロの外皮、檜(ひ)、竹、紙など。製品としては、藤布の裁着(たっつけ)、鹿(しか)皮の裁着、マダ布の猿袴(さるばかま)、カルサン、犬の皮の胴着・胸当、藁(わら)の手袋、蒲脛巾(がまはばき)、ドンザ、裂織(さきおり)、脛巾、踵当(かかとあて)、甲掛(こうがけ)、手覆(ておい)、襟当(えりあて)、風呂敷(ふろしき)、手拭(てぬぐい)、三尺、ユテ、一般の仕事着、各種頭巾、腹掛、前掛など。傘、笠(かさ)、蓑(みの)、腰当、腰蓑、肩蓑、バンドリの類など。
(6)履き物(材料には各種ある) 下駄各種、藁沓(わらぐつ)、爪掛(つまがけ)類、竹下駄、浜下駄、草履(ぞうり)、足半(あしなか)、草鞋(わらじ)、皮沓(かわぐつ)、カンジキ(木製・鉄製)、大足(おおあし)、田下駄など。
(7)装身具 櫛(くし)、笄(こうがい)、元結(もとゆい)、竹長(たけなが)、そのほか結髪用具、袋物、文身(いれずみ)道具など。
(8)出産育児用具 出産に関しては祝品、縁起物または地方的特色のある調度品類。育児関係のものではツグラ、イズメ、イサ、シンタなどの嬰児籠(えじこ)の類。
(9)衛生保健用具(これには民間療法に必要な用具および材料を含む) お歯黒道具、捨木(すてぎ)(イタドリの幹、竹へら、藻)、温石(おんじゃく)、センブリ、オウレン、サイカチの実など。
〔2〕生業に関するもの
(1)農具 鍬(くわ)、鋤(すき)、備中(びっちゅう)、唐鍬(とうぐわ)、馬鍬(まぐわ)など耕うん用の器具、摺臼(すりうす)、唐箕(とうみ)、箕、槌(つち)の各種、桝(ます)、鎌(かま)などの収穫用具、そのほか播種(はしゅ)、施肥、除草、害虫駆除をはじめ苗代仕立てに使用される用具、大足、田下駄など。
(2)山樵(さんしょう)用具(山樵に関するもののうち、運搬関係の用具は除く) 鎌、鉈(なた)の各種、鋸(のこぎり)、斧(おの)、鉈の鞘(さや)、砥石(といし)袋、弁当袋など。
(3)狩猟用具(現在の鉄砲具は除外する。いわゆる火縄銃までの銃器その他) 烟硝(えんしょう)入れ(印籠(いんろう)式、竹筒、長門(ながと)細工、角(つの)製など狩人(かりゅうど)各自の製作によるもの)、狩着、火縄、火縄入れ、火子入れ、口薬(くちぐすり)入れ、弾丸製造器、山刀(やまがたな)、鹿(しか)笛、鳥笛、呼子(よびこ)笛、手鎗(てやり)、ワナなど。
(4)漁労用具(海・湖・川などに使用される漁労用具で、海藻採取に関するものも含む) 筌(うけ)、各種の釣り具、各種の網、銛(もり)、鎌、ヤス、磯(いそ)カネ、アカトリ、磯着(いそぎ)など。
(5)紡織色染に関するもの 機(はた)、地機(じばた)、莚機(むしろばた)、紡車(つむぎぐるま)、綿繰(わたく)り機、綿打具、枠の台、苧績桶(おぼけ)、糸管(いとくだ)、筬(おさ)の各種、梭(ひ)、縞帳(しまちょう)、撚(より)コなど。材料としては、マダ、麻、藤、藍(あい)、クチナシ、泥、紫、木槿(むくげ)など。製品としては、藤布、楮布(こうぞぬの)、麻布、マダ布、木綿、炭俵、ネコ、茣蓙(ござ)、莚(むしろ)、簾(すだれ)、畳表など。
(6)畜産用具(伯楽(はくらく)関係も含む) 手綱(たづな)、轡(くつわ)、牛馬腹掛、秣桶(まぐさおけ)の各種、鈴、鼻ホガシ、たてがみを切る鋏(はさみ)、ラク印、爪切り道具、鼻木、口(くち)モッコ、牛馬の沓(くつ)、面繋(おもがい)など。
(7)交易用具(交易、市(いち)に関係あるもので、度量衡具、計算具等も含む) そろばん、各種の桝(ます)、財布、銭箱など。
(8)その他 漆掻(うるしか)き、樟脳採(しょうのうと)り、砂金採り、木地師、側師(がわし)、皮剥(かわはぎ)(杉)、岩茸(いわたけ)採り、屋根葺(ふき)師、塩浜、石工、大工、鍛冶屋(かじや)などの使用する用具など。
〔3〕通信運搬に関するもの
(1)運搬具(機械によるものを除き、牽(ひ)き、担(にな)い、負(お)い、舁(かつ)ぎ、提(さ)げ、載(いただ)きなどの方法による用具とその補助具および携行具) 橇(そり)の各種、鳶口(とびぐち)の類、背負梯子(ばしご)、荷杖(にづえ)、背負縄、背負籠(かご)類、小出(こだし)、背中当、畚(もっこ)、叺(かます)、小袋、天秤(てんびん)棒、輪(頭上運搬用)、曲物(まげもの)など。
(2)行旅具 ヌサ袋、福草鞋(わらじ)、白衣、胴巻、金剛杖など。
(3)報知具 拍子木、法螺(ほら)貝、板木(ばんぎ)、采(ざい)、半鐘、采配(さいはい)、旗、のろし具、文箱(ふばこ)など。
〔4〕団体生活に関するもの(災害予防具、若者宿の道具、地割用具、共同労働具などを含む) 堂椀(どうわん)、共同使用の網、車など。
〔5〕儀礼に関するもの
(1)誕生より元服(成年式) 岩田帯、産着、よだれ掛け、七五三祝の用具、履き初(ぞ)めの草履(ぞうり)、褌(ふんどし)、お歯黒道具、歯固め餅(もち)など。
(2)婚姻(祝い物、縁起物または地方的特色のある調度品) フネ、継箱(つぎばこ)、綿帽子、お歯黒道具、〆(しめ)酒の類など。
(3)厄除(やくよけ)(厄除、厄払いに関係ある道具)。
(4)年祝(としいわい) 火吹竹、フクベの着物、麻の葉の褌、赤色のチャンチャンコ、帽子など。
(5)葬式、年忌(とくに地方的特色のある民具) 足半(あしなか)、被物(かぶりもの)、配物(くばりもの)、水塔婆(みずとうば)の類など。
〔6〕信仰・行事に関するもの
(1)偶像(主として民間卑近のもので、いわゆる高遠な芸術品とはおのずから別のもの) 庚申(こうしん)、山の神、水神などの民間信仰に機縁が深い御影(みかげ)または御札(おふだ)の類。オクナイ様、塞神(さえのかみ)、行者、地蔵、馬頭観音の類、オシラ様、カクラ神、和合神など、狐(きつね)、犬、狼(おおかみ)、鹿、蛇、鶏、烏(からす)、鮭(さけ)などのような動物の形態をとったもの。河童(かっぱ)、天狗(てんぐ)、八足牛などの妖怪(ようかい)に類するもの。虫送りの藁(わら)人形、精霊馬、形代(かたしろ)の類。あるいはこれらの写真など。
(2)幣帛(へいはく)類 幣帛、削り掛け、依代(よりしろ)、梵天(ぼんてん)、万灯の類。道祖神祭の飾り、注連縄(しめなわ)の類。煤掃男(すすはきおとこ)、道柴(みちしば)の類。石、幟(のぼり)、繭玉など。
(3)祭供品および供物 塩手籠(しおてご)、清め御器(ごき)、エビスの藁皿、オミキスズ(神酒の口)などの祭供品、水の餅(もち)など。
(4)楽器 笛、太鼓、鈴、神楽(かぐら)鈴、編木(びんざさら)、簓(ささら)、鉦(かね)、鰐口(わにぐち)、四ツ竹、拍子木の類。
(5)仮面(材料・様式として木彫、木彫彩色、木地彩色、樺(かば)皮、瓢(ひさご)、土型、張子(はりこ)などがおもなもので、補助具も含む) 鬼神、観音、般若(はんにゃ)、日能水能(ひのうみずのう)、猿、蟹(かに)、ナマハゲ、オカメ、ヒョットコ、尉(じょう)、天狗、獅子(しし)、龍(たつ)、狐(きつね)など。
(6)呪具(じゅぐ) 呪性を帯びらせる民具類、動植物その他。
(7)卜具(ぼくぐ) 粥杖(かゆづえ)、杖、算木(さんぎ)、筮竹(ぜいちく)、籤箱(くじばこ)など。
(8)祈願品 石椀、山の神への扮装(ふんそう)、枕(まくら)、オコゼ、奉納苞(ほうのうづと)、薪(まき)など。
〔7〕娯楽遊技に関するもの娯楽遊戯、賭事(かけごと)、競技に関する器具。
〔8〕玩具・縁起物手製の玩具(がんぐ)で商品ではないもの。
 『民具蒐集調査要目』では民具の概要をこのように示しているが、1954年(昭和29)に文化財保護委員会が告示した重要民俗資料(現在は重要有形民俗文化財、重要無形民俗文化財となっている)の指定基準では、その領域・分類を次のようにしている。(1)衣食住に用いられるもの、(2)生産・生業に用いられるもの、(3)交通・運輸・通信に用いられるもの、(4)交易に用いられるもの、(5)社会生活に用いられるもの、(6)信仰に用いられるもの、(7)民俗知識に関して用いられるもの、(8)民俗芸能・娯楽・遊戯・嗜好に用いられるもの、(9)人の一生に関して用いられるもの、(10)年中行事に用いられるもの。[小川直之]

研究目的と方法

民具はこのように人間生活全般にわたっており、基本的にはいずれも一般庶民が長い歴史を通じ、各地域の自然環境や社会関係のなかで実用目的をもって製作ないし使用が繰り返されてきたもので、特定の人々によってつくられた芸術性の高いものとか希少なものではない。民具の現在ある形や構造は人々の生活体験の累積のなかでつくられてきたものであり、そこには製作技術、使用法などが定型的な観念(文化)となって共通の理解がされて伝承されているのである。つまり、民具というのは実用品で、不用となれば廃棄されるのであるが、これは一定の社会における文化的産物の一つとしてとらえることができるのであり、ここから日本文化の基層にある構造や特質をみいだそうというのが民具研究の一つの目的である。ここでいう民具のもつ定型的文化の伝承という属性は、『民具蒐集調査要目』の具体例でもわかるように、日本の民具は腐敗・破損しやすい植物性のものでつくられたものが多いとか、儀礼・信仰・行事に関するものは本来、一定の周期で繰り返しつくられていくものだという特質に基づくといえるのである。
 民具は以上のような属性をもつ反面、これにはかならずといっていいほど、変化・変遷がある。たとえば『民具蒐集調査要目』に例示されているものをみると、現代生活のなかではすでに使われてないもの、あるいは当時とその材質・構造などが大きく変わったものが多いのに気づくと思う。とくに第二次世界大戦以後は日本人の生活様式、生産・生業形態などが大きく変わり、生活用具はそれ以前と質的な変容をしているともいいうる。もはや『民具蒐集調査要目』の民具は、現在では「身近卑近」のものではなくなっているのであり、これに示された具体例は、歴史的にいえば近代あるいは近代から現代にかけての民具とみることも可能である。つまり、民具は通時代的にみていくならば、そこには変化・変遷あるいは変容があり、これを同時に使われる諸民具とともに明らかにすることが一つの研究課題となるのである。さらにここから、民具の発生、継承、変異の法則を求めていくという目的も生まれてくる。こうした研究では、考古学が扱う諸遺物もそれぞれの時代の民具(出土民具)と考えることが可能となるし、絵巻物類などに描かれた庶民生活の姿は過去の民具の形・構造・使用法を知る重要な資料となってくる。民具研究の対象はあくまで現代社会にあるのだが、民具それぞれがもつ歴史性は重要な点であることはいうまでもない。なお、現在の生活用具は前記のように大きく変貌(へんぼう)しており、これを潜在民具、基本民具、在来民具、新民具、自給民具、流通民具などの新たな概念で区別して研究しようという動きもある。このことは、研究対象、素材の変貌にいかに対応した研究を行うかという現在の民具研究の方法論上の課題である。
 民具研究の方法で基礎となるのは民具の収集と記録である。生活様式などが大きく変わり、伝統的な生活用具が失われていくなかでは、民具を収集・保存する施設・機関の役割は重要である。さらに民具は、考古遺物や絵画などと異なり、そのものの名称、使用法、製作法、入手法、分布、由来、材質などが判明する場合がほとんどで、これらの記録化と民具の図示は研究上不可欠な情報である。また、記録に際しては映画や写真も重要な役割をもち、場合によってはX線写真などによる非破壊分析も必要となってくる。このように行われる民具の資料化で注意しなければならないのは、民具はそれ1点で使用されるのでなく、かならず関連用具、補助具があり、これらもあわせて収集・記録する必要がある。民具研究の方法は、その課題・目的等に応じて一律ではなく、また未開拓の側面もあるが、従来からの基本的な方法には、同一種類の民具をとらえて各地で比較を行う方法と、1地域、1村、1軒の家というように一定範囲内の民具全体をとらえて行う方法がある。前者は通時的な方法であり、これによって民具の変遷などが明らかになり、後者は共時的な方法で、生活用具の全体構成、生活様式などの特徴を考察でき、民具誌的研究ともいいうる。もちろんこの二つの方法は相互補完的な関係で行われる。[小川直之]

研究の沿革

日本における民具(物質文化)研究は、明治時代から人類学anthropology、土俗学ethnologyの名のもとで始められ、大正時代からは『郷土研究』(1913~34)誌上でも行われるようになるが、本格的な研究は1921年(大正10)に渋沢敬三らによって渋沢邸にアチック・ミューゼアムが創設されて以後、昭和になってからである。「アチック」では1930年(昭和5)に『蒐集物目安』をつくり、民具収集を訴え、35年前後からは各地で同人らによる調査研究が行われるようになり、『民具問答集』(1937)など刊行し、多くの成果があがった。ここでの研究は第二次世界大戦で惜しくも中断されることになるが、一方では「アチック」の収集した1万3000点余の民具は1937年に日本民族学会へ寄贈され(のちに文部省史料館に寄贈され、現在は文部科学省国立民族学博物館へ移管)、その後は財団法人日本民族学協会附属民族学博物館を中心に民具研究が進められた。アチック・ミューゼアムは1942年に日本常民文化研究所と改称され、50年(昭和25)には財団法人となり、その後渋沢没後に『絵巻物による日本常民生活絵引』5巻が65~68年に刊行されて、ふたたび民具研究の拠点となっていく。1968年から同研究所編集による『民具マンスリー』が発行されるようになり、多くの研究者が集まり、74年からは民具研究講座が開設され、翌年には日本民具学会ができた。現在は日本民具学会のほか、国立民族学博物館、国立歴史民俗博物館、各地方公共団体などの博物館・資料館、日本常民文化研究所を招致して開設された神奈川大学日本常民文化研究所、さらに各地の民具研究団体を中心に研究が進められている。学会の設立によって、新たな物質文化研究の方法として民具学も唱え始められている。[小川直之]
『日本常民文化研究所編『日本の民具』(1958・角川書店) ▽宮本馨太郎著『民具入門』(1969・慶友社) ▽宮本常一著『民具学の提唱』(1979・未来社) ▽中村たかを著『日本の民具』(1981・弘文堂) ▽礒貝勇著『日本の民具』(1971・岩崎美術社) ▽礒貝勇著『続日本の民具』(1973・岩崎美術社) ▽文化庁内民俗文化財研究会編『民俗文化財の手びき――調査・収集・保存・活用のために』(1979・第一法規出版) ▽日本常民文化研究所編『日本常民生活資料叢書』全24巻(1972~73・三一書房)』

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