日本大百科全書(ニッポニカ) 「吉備大臣入唐絵巻」の意味・わかりやすい解説
吉備大臣入唐絵巻
きびだいじんにっとうえまき
絵巻。4巻。ボストン美術館蔵。もと二巻本であったと思われるが、現存するのは前半のみで、しかも巻首の詞(ことば)を失っている。全長24.4メートルあり、現存の絵巻のなかではもっとも長かったが、1964年(昭和39)に四巻本に改装された。内容は吉備真備(きびのまきび)(奈良時代の学者で廷臣)が遣唐使として唐に渡った際、唐の朝廷から多くの難題を出され、その才能技芸を試される。それを阿倍仲麻呂(あべのなかまろ)の霊が鬼に化けて吉備を助けるという話を描いている。絵はかなりの濃彩を用いるとともに、一方では誇張的と思われる癖のある描線を駆使して動きのある図様を構成する。同一人物が繰り返し幾度も反復描写されるのもこの作品の特色である。描写は『伴大納言絵詞(ばんだいなごんえことば)』(12世紀)に近似するところがあり、同じく常磐光長(ときわみつなが)の筆と伝えられるが、画風的にやや形式化がみられ、光長らの系統を引く鎌倉初頭の制作と考えられる。この絵巻は、室町時代には若狭(わかさ)国(福井県)松永荘(しょう)の八幡宮(はちまんぐう)に『伴大納言絵詞』などとともに伝存していたもので、その後藩主酒井氏の蔵品として同家に伝えられた。
[村重 寧]
『梅津次郎編『新修日本絵巻物全集6 粉河寺縁起絵・吉備大臣入唐絵』(1977・角川書店)』▽『小松茂美編『日本絵巻大成3 吉備大臣入唐絵巻』(1977・中央公論社)』