平安時代以来,江戸時代にいたるまで用いられた絵画用語。本来は中国から輸入された物産・工芸品を唐物というのに対応して,中国渡来の絵画をさす言葉と思われるが,その用法は,各時代によって微妙に異なっている。平安時代においては,9世紀の後半から,それまで中国の風物のみを描いていた障屛画に日本の風景,風俗が描かれるようになると,それまでの中国的画題による障屛画との区別の必要が生じ,前者を倭絵(やまとえ),後者を唐絵と呼んだ。唐絵の呼称は,中国からもたらされた仏画に対しても用いられている。当時の唐絵の画題としては,中国古代から唐にいたる名臣の肖像を描いた賢聖障子が代表的なものであり,これは宮廷の障子絵の画題として近世まで描き継がれている。ほかに,《山海経(せんがいきよう)》所論の長臂国,長股国の異類(手長足長)を描いた荒海障子,馬を描いた馬形障子などが文献により知られる。鎌倉時代後半から南北朝,室町時代にかけては,宋,元の絵画が大量に輸入された。これを唐絵と呼び,また,それに学んだ中国画の画題・手法による日本画もあわせて唐絵と呼んでいる。この用法は江戸時代にも引き継がれており,長崎を経由して新たに輸入された明,清の絵画やそれに倣った絵画も唐絵と呼ばれているが,唐絵より漢画の方が江戸時代ではより一般的な呼称となっている。
執筆者:辻 惟雄
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中国の絵画およびこれに倣って日本で制作された絵の呼称。平安時代中ごろより、日本ではそれまでの中国文化の影響を脱し独自の和風文化が形成されたが、絵画においても日本的な「大和絵(やまとえ)」が描かれるようになった。これに対して、中国からの舶載画や、日本で制作されたものでも中国的な絵画を「唐絵」とよんだ。ただし、両者の区別は画風によるものではなく、扱う題材によるものであった。すなわち、日本的な題材を扱えば大和絵、中国的な題材を扱えば唐絵とよばれた。唐絵という呼称のもっとも早い例は、『北山抄』に引用された寛平(かんぴょう)年間(889~898)ごろ成立の『蔵人式(くろうどしき)』にみられる。唐絵は大和絵とともに鎌倉時代前期まで制作され続けたが、鎌倉後期に入り宋元(そうげん)絵画の舶載が盛んになると、唐絵はこれら新画風の宋元絵画や、さらにこの画風に倣って日本で制作された絵画の呼称としておもに用いられるようになった。なお、このような新画風の絵画は「漢画」ともよばれる。
[加藤悦子]
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平安時代からある語で,やまと絵と対をなす様式の絵画。中国あるいは高麗・朝鮮など外国で描かれ日本へ舶載された絵画,また,日本で描かれた中国風の絵画のこと。内容は時代とともに異なる。平安時代には,中国の典籍にもとづいた唐風の人物などを描いた障子絵や屏風絵をいったが,鎌倉後期頃から主として宋や元の水墨画に学んだ絵画をさすようになる。やまと絵との区別は,題材・主題によるものから技法・様式によるものへと変化した。室町中期には唐絵の様式を統一して狩野派がおこった。
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…この唐朝宮殿の巨障高壁絵画を倣った日本の宮廷絵画の制は,現在の京都御所に継承されている。このような中国的画題の障屛画は〈唐絵〉とよばれ,儀礼空間の意味づけに重要な役割をはたした。さらに中国の詩文集を典拠に《文選(もんぜん)》《楽府(がふ)》《長恨歌》などの屛風がさかんに制作され,それら屛風絵を題材にして詩作が試みられ,絵画の芸術的享受を促した。…
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[古代]
奈良時代に中国から新しい絵画の様式と技法が移入されると,もっぱら中国画の習熟につとめ,奈良~平安初期には,主題も賢人聖人を描いた〈賢聖障子(けんじようのしようじ)〉,史書や仏典に由来する物語図の〈荒海(あらうみ)障子〉〈昆明池(こんめいち)障子〉などに限られていた。しかし9世紀後半ころから日本(倭,やまと)の風景や風俗を描くことが始まると,これをやまと絵と呼び,前者をその反対概念である唐絵(からえ)として両者を区別した。〈やまと絵〉という言葉は,長保元年(999)の《権記》にみえる藤原彰子入内のため調えられた飛鳥部常則画の〈倭絵四尺屛風〉を初出として平安時代に10余例が知られる。…
※「唐絵」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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