労働者の職務を基準として決められる賃金で、職能給とともに仕事給の主要な形態をなす。1920年代にアメリカで労務管理の一環として生まれ、40年代、実質賃金の低下による労働意欲の減退に対する対応策として広く活用され、本格的普及をみた。第二次世界大戦後、先進諸国にも拡大した。わが国には、1955年(昭和30)以降、高度成長下の技術革新による労働内容の細分化と職種の職務への分解、それに伴う年功賃金の手直しの必要などを背景に導入が始まり、60年代初頭の鉄鋼大手による一斉導入を契機に広範化した。職務給は以下の三つの段階を経て設定される。
(1)対象となる全職務について職務分析を行って、各職務に含まれる作業範囲、その遂行に必要な条件(知識、熟練、資格)などを決め、職務を確定し標準化する。
(2)確定された各職務について、重要度、困難度、責任度などを測定する職務評価を行い、その結果に基づいて各職務の相対的な価値序列を決める。
(3)この評価結果を賃金に結び付けて職務賃率を定める。その際、評価結果以外に市場賃金の動向、企業の賃金政策などが加味されて最終的に決定される場合が多い。
職務給は大別すると、各職務ごとにそれぞれ異なる賃率を定める個別職務給と、各職務をいくつかの職級にまとめて賃率を定める職階別職務給とがある。また、一つの職務・職階に単一の賃率を対応させる単一職務給と、賃率に一定の幅をもたせる範囲職務給との区別がある。日本の場合、年功賃金を残しつつ、それとの妥協的形態をとる場合が多く、同一職務・職級内で年功昇給する仕組みをもつ範囲職務給が主流となっている。日本の職務給は、この点に加えて、企業内的性格が強く、職務評価の責任度も事実上企業貢献度として規定されるなど、労務政策的色彩が濃いことがその特徴として指摘されている。
職務給は、仕事の内容に対応して支払われる形態をとっている点で合理的かつ公正な賃金のようにみえるが、たとえば職務評価における評価要素の選定とそのウェイトのかけ方、評価結果と賃金との結び付け方には客観的基準はなく、多分に企業の意向によって左右されるなど、主観によるところも多い。また、職務別定員の設定が昇進統制を不可避的に呼び起こし、労働者相互の昇進競争、企業による差別的管理を招くなど、かえって不公正さを拡大する側面ももっており、労働組合の側には根強い反対がある。
[横山寿一]
『小島健司著『日本の職務給』(1966・大月書店)』
もともと1930年代以降アメリカの大企業や官公庁など,多数の職種をかかえた経営体で採用されるようになった賃率設定のための技術である。まず(1)経営体のなかのさまざまな職務について,仕事の質・量,内容,方法,作業を遂行するのに必要な資格条件,作業条件を記述し,作業の範囲,量,資格条件などを確定すること(職務分析),(2)その結果を各職務に必要な責任,努力,教育・訓練の程度,生理的・心理的条件・環境などの評価要素により,相対的に評定し,職務を分類すること(職務評価・職務分類),(3)それに基づいて職務等級に格付けし,賃率を結び付ける賃金表を作成すること,(4)各職務に従業員を配置するための昇進試験,人事考課の諸制度をつくり昇給・昇進管理のルールを設定すること,である。
日本では,職務給は十条製紙が1952年に導入したのが最初である。高度成長期以降〈年功的基本給の職務給化〉という形で導入が図られてきた。それは基本給全体を職務給化する〈混合型〉と,基本給の一部とベースアップの源算をつかって職務給化する〈併存型〉とに大別されるが,前者は同一職級内で昇給幅をもたせる〈範囲職務給〉となり,後者は純粋な単一職務給となるが,そのために年功的基本給との併存という形をとった。いずれの型にせよ企業による職務給の導入は,上位職級への昇進と同一職級内の昇給を人事考課によって厳格に規制し,個別賃金の決定を企業の主導下におくことによって,賃金,労務管理機能を一段と強化しようとする点におかれてきた。〈定年制〉の枠の中では,能力,査定昇進を強化する限り,職務給化は等級内〈頭打ち〉の問題をもたざるをえない。さらに,高度成長期の技術革新は,労働力需要の質と量を変化させ,職務の内容と範囲のたえざる変化をもたらしただけでなく,労働力の企業内流動化=配置転換や多能工化の必要を生み,能力と賃金が職務の格付けからかけ離れている状況をつくりだした。1973年秋のオイル・ショックを境にしての低成長への転換,減量経営の遂行は職務給化のこうした内部矛盾を一挙に露呈し,上位職務のポストが少なくなって昇進が一段ときびしくなるにつれ,人事管理の能力主義化をめざす〈合理化〉の一環として,職務給の〈職能給化〉という政策が急速に台頭するようになった。
→賃金 →賃金形態
執筆者:高橋 洸
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