改訂新版 世界大百科事典 「名工柿右衛門」の意味・わかりやすい解説
名工柿右衛門 (めいこうかきえもん)
戯曲。3幕。榎本虎彦作。1912年11月東京歌舞伎座初演。配役は陶工柿右衛門を11世片岡仁左衛門,弟子栗作を15世市村羽左衛門,妹娘おたねを5世中村歌右衛門など。中村正直訳《西国立志編》第3編〈三陶工の伝〉の翻案脚色であるが,すでに1872年京都北の芝居に佐橋富三郎脚色《其粉色陶器交易(そのいろどりとうきのこうえき)》が上演され,ユジェーヌ・ブリウの《ベルナール・パリッシー》(1880)もあって,両者の影響も推察される。肥前有田の陶工柿右衛門(酒井田柿右衛門)は15年来万暦赤絵の皿を作ろうと苦心を重ねてきた。かつて彼の陶器を売って巨富を得た有田屋五兵衛は,武家の娘を伜の嫁にするため柿右衛門の娘お通の許嫁を破約し,お通は投身自殺する。有田屋は焼け,息子は焼死,苦心の末に赤絵の皿に成功した柿右衛門は声をあげて泣く。主人公の名人気質が11世仁左衛門の芸風に一致し,翻案臭をとどめぬ佳作となった。
執筆者:永平 和雄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報