日本大百科全書(ニッポニカ) 「吸収能」の意味・わかりやすい解説
吸収能
きゅうしゅうのう
absorptivity
電磁波、粒子線などが物質に吸収されるとき、もとの量に対する吸収された量の割合。おもに熱平衡状態にある物質表面における電磁波の吸収・放出を議論する際に用い、熱平衡状態を問題にしない場合には、吸収率、吸収係数などの用語を用いる。
温度Tで熱平衡状態にある物質表面において、振動数νの電磁波の吸収能をA(ν, T)、輻射能(ふくしゃのう)をE(ν, T)とすれば、K(ν, T)=E(ν, T)/A(ν, T)が成り立つ。K(ν, T)は放射強度とよばれ、振動数と温度だけでその値が決まり物質表面の性質にはよらない(熱輻射に関するキルヒホッフの法則。「熱放射」の語を使うこともある)。
K(ν, T)は物質にはよらないから、E(ν, T)/A(ν, T)も物質によらず振動数と温度だけで決まる定数である。したがって、A(ν, T)が大きくてよく熱輻射を吸収する表面は、逆にいえば、輻射能が大きくよく熱エネルギーを熱輻射として放散する性質をもっていることがわかる。またすべての振動数νでA(ν, T)=1となる物質、つまりあらゆる振動数の電磁波を吸収する物質は黒体とよばれ、このときK(ν, T)はプランクの黒体輻射の式に対応したものとなる。
[石黒浩三・久我隆弘 2015年12月14日]