黒体(読み)コクタイ(英語表記)black body

翻訳|black body

デジタル大辞泉 「黒体」の意味・読み・例文・類語

こく‐たい【黒体】

すべての波長放射を完全に吸収する仮想物体白金黒はっきんこくなどがこれに近い。熱放射エネルギー測定の基準体としてキルヒホッフ導入

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精選版 日本国語大辞典 「黒体」の意味・読み・例文・類語

こく‐たい【黒体】

  1. 〘 名詞 〙 入射するすべての波長の輻射(ふくしゃ)を、完全に吸収する理想的な物体。輻射を完全に遮断する壁で囲んだ空洞に、きわめて小さな穴をあけ、全体一定温度にしておいて外からこの穴を見る時完全に近い黒体が実現できる。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「黒体」の意味・わかりやすい解説

黒体
こくたい
black body

物体の表面は、そこに当たった電磁波(放射ともいう)の一部を反射し残りを吸収するとともに、自らも電磁波を出す。振動数νの入射電磁波のうち吸収されるものの割合をανとすると、この吸収能ανはνと温度T関数である。すべてのνに対して吸収能が1であるような理想的物体を黒体という。常温で真っ黒に見える物は黒体に近い。物体が温度に応じて自ら出す放射を熱放射といい、その振動数分布は温度によって異なる。外から当たる放射と出す放射が等量のとき、物体と周囲の放射とは平衡状態にあるといわれる。同じ放射を受けて平衡にある物体を比較すれば、いちばん多く吸収する黒体が、出している放射もいちばん多いことがわかる。黒塗りの自動車は、昼間日光を多く吸収するが、夜になると他の色の車よりも放射をたくさん出すので、冬の夜などいちばん先に冷えて霜がつく。

 十分厚い壁で囲まれた空洞に小さな穴をあけ、それを外から見た場合には、穴の部分は煤をつけたと同様に黒く見える。そこに外から入射した電磁波は出る前に内部で吸収されてしまうから、外から見る限り黒体表面と同じになる。内壁の絶対温度をTとすると、壁から出た熱放射が空洞内に充満している。これを温度T空洞放射という。それを乱すことがないほど小さい穴を壁にあければ、外へはその空洞放射がそのままの割合で出ていくことになる。穴を外から見ると黒体放射と同じであるから、黒体放射というのは空洞放射と同じであることがわかる。黒体放射(=空洞放射)は、熱放射の基準として詳しく研究され、プランクの放射公式から量子論発見の糸口となった。太陽の表面は絶対温度6000Kの黒体放射に近い放射を出している。

[小出昭一郎]

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改訂新版 世界大百科事典 「黒体」の意味・わかりやすい解説

黒体 (こくたい)
black body

それに当たるあらゆる放射(光)を完全に吸収してしまう仮想上の物体。熱放射に関するキルヒホフの法則を証明するための思考実験に当たり,1860年にG.R.キルヒホフ自身が想定した。以来,今日に至るまで熱放射に関する基本的な結果(シュテファン=ボルツマンの法則,ウィーンの変位則,プランクの放射則)はすべて黒体に対して定式化されている。しかし,その意義は実験研究の初期には認識されず,結果がばらつき,また理論との不一致がいわれる原因となった。95年から,F.パッシェンは白金,酸化鉄,すす,炭素棒からの熱放射を測り外挿によって黒体の法則を見いだそうとし,これに対しW.ウィーンとO.ルンマーは厚い壁の空洞に小孔をあけ穴の面を黒体としてつかう空洞放射の実験を始めた。小孔に当たった放射は空洞に入り何度も反射を繰り返すうちにすべて吸収されてしまうのである。黒体は,常温では黒いが,ふつうの物体に比べると放射能power of emissionがより高いのでより輝いて見えるはずである。
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百科事典マイペディア 「黒体」の意味・わかりやすい解説

黒体【こくたい】

入射したすべての波長の放射を反射も透過もしないで完全に吸収する仮想の物体。すすや白金黒がこれに近い。一定温度の物体が単位表面積から放射するエネルギーの量は,物体の種類や性質により異なるが,黒体の場合は最も大きく,かつ温度だけで決まる。→黒体放射ウィーンの変位則シュテファン=ボルツマンの法則プランク
→関連項目色温度

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化学辞典 第2版 「黒体」の解説

黒体
コクタイ
black body

すべての波長の光を吸収する物体.炭がこれに近い.黒体でつくられた空洞内では,温度によって決まる熱放射の平衡状態が出現する.空洞に小さな穴を開け,その穴からのぞけば熱平衡にある黒体放射を観測することができる.

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「黒体」の意味・わかりやすい解説

黒体
こくたい
black body

すべての振動数の放射を反射することなく完全に吸収する理想的な物体。たとえば炭は黒体に近い。周囲の壁が放射を完全にさえぎり,内部が一定の温度に保たれている空洞の壁に非常に小さい穴をあけて外部から見ると,それは黒体とみなされる。黒体から放射される熱放射を黒体放射という。

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世界大百科事典(旧版)内の黒体の言及

【伝熱】より

…このうち吸収された放射エネルギーは再び物質の分子運動のエネルギーに変換され見かけ上温度が上昇する。入射する熱放射線をすべて吸収する物体を黒体というが,黒体から放射される熱放射線はその温度における各波長の熱放射の最大値を与えることが知られている。一般に実在する物体の熱放射は黒体とは異なり,つねに黒体よりも弱い熱放射を呈する。…

※「黒体」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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