翻訳|black body
物体の表面は、そこに当たった電磁波(放射ともいう)の一部を反射し残りを吸収するとともに、自らも電磁波を出す。振動数νの入射電磁波のうち吸収されるものの割合をανとすると、この吸収能ανはνと温度Tの関数である。すべてのνに対して吸収能が1であるような理想的物体を黒体という。常温で真っ黒に見える物は黒体に近い。物体が温度に応じて自ら出す放射を熱放射といい、その振動数分布は温度によって異なる。外から当たる放射と出す放射が等量のとき、物体と周囲の放射とは平衡状態にあるといわれる。同じ放射を受けて平衡にある物体を比較すれば、いちばん多く吸収する黒体が、出している放射もいちばん多いことがわかる。黒塗りの自動車は、昼間は日光を多く吸収するが、夜になると他の色の車よりも放射をたくさん出すので、冬の夜などいちばん先に冷えて霜がつく。
十分厚い壁で囲まれた空洞に小さな穴をあけ、それを外から見た場合には、穴の部分は煤をつけたと同様に黒く見える。そこに外から入射した電磁波は出る前に内部で吸収されてしまうから、外から見る限り黒体表面と同じになる。内壁の絶対温度をTとすると、壁から出た熱放射が空洞内に充満している。これを温度Tの空洞放射という。それを乱すことがないほど小さい穴を壁にあければ、外へはその空洞放射がそのままの割合で出ていくことになる。穴を外から見ると黒体放射と同じであるから、黒体放射というのは空洞放射と同じであることがわかる。黒体放射(=空洞放射)は、熱放射の基準として詳しく研究され、プランクの放射公式から量子論発見の糸口となった。太陽の表面は絶対温度6000Kの黒体放射に近い放射を出している。
[小出昭一郎]
それに当たるあらゆる放射(光)を完全に吸収してしまう仮想上の物体。熱放射に関するキルヒホフの法則を証明するための思考実験に当たり,1860年にG.R.キルヒホフ自身が想定した。以来,今日に至るまで熱放射に関する基本的な結果(シュテファン=ボルツマンの法則,ウィーンの変位則,プランクの放射則)はすべて黒体に対して定式化されている。しかし,その意義は実験研究の初期には認識されず,結果がばらつき,また理論との不一致がいわれる原因となった。95年から,F.パッシェンは白金,酸化鉄,すす,炭素棒からの熱放射を測り外挿によって黒体の法則を見いだそうとし,これに対しW.ウィーンとO.ルンマーは厚い壁の空洞に小孔をあけ穴の面を黒体としてつかう空洞放射の実験を始めた。小孔に当たった放射は空洞に入り何度も反射を繰り返すうちにすべて吸収されてしまうのである。黒体は,常温では黒いが,ふつうの物体に比べると放射能power of emissionがより高いのでより輝いて見えるはずである。
執筆者:江沢 洋
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すべての波長の光を吸収する物体.炭がこれに近い.黒体でつくられた空洞内では,温度によって決まる熱放射の平衡状態が出現する.空洞に小さな穴を開け,その穴からのぞけば熱平衡にある黒体放射を観測することができる.
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…このうち吸収された放射エネルギーは再び物質の分子運動のエネルギーに変換され見かけ上温度が上昇する。入射する熱放射線をすべて吸収する物体を黒体というが,黒体から放射される熱放射線はその温度における各波長の熱放射の最大値を与えることが知られている。一般に実在する物体の熱放射は黒体とは異なり,つねに黒体よりも弱い熱放射を呈する。…
※「黒体」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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