六訂版 家庭医学大全科 「嚥下訓練」の解説
嚥下訓練
(のどの病気)
嚥下訓練は万能ではない
嚥下障害に対する治療法や対策としては、保存的な治療などが中心となりますが、一部に外科的対応が必要になる場合もあります。嚥下訓練(嚥下リハビリテーション)はこのうち保存的な治療に含まれますが、手術治療の前後に行うことも有効であるとされ、最近注目を浴びています。
しかし、「誰にでも、どんな状態にでも嚥下訓練が効果的である」と考えるのは危険です。嚥下訓練は万能ではなく、適応や限界を把握したうえで実施されるべき治療方法です。
直接訓練と間接訓練
嚥下訓練は通常、食べ物を用いて行う「直接訓練」と、食べ物を使わずに行う「間接訓練」とに分類されます。
食べ物を用いた直接訓練は誤嚥のおそれがあり、とくに全身状態の不良な場合には嚥下性肺炎を引き起こし、重大な事態になることも考えられます。また、訓練は①嚥下する姿勢、②食べ物の性状を工夫し、③食べ物の量を調整して行われます。そのため、医師や看護スタッフなどの厳重な管理のもとに、栄養士などの協力を得て行われる必要があります。
一方、間接訓練は食べ物を用いないために誤嚥の恐れはなく、訓練方法を選択すれば、さまざまな病態に試行が可能です。障害部位や機能改善の項目に沿った、多種多様の訓練内容が考案されており(表1)、これらから選択し、組み合わせて実施することになります。実際の訓練は、嚥下動作は発声や構音に関する器官によって行われることから、言語聴覚士が担当するようになってきています。
しかし、どのような病態に、どの訓練方法が、どの程度効果的であるのか、といった点がはっきりと立証されているわけではありません。ほとんどは経験的、実際的場面から訓練方法が選択されています。訓練が誰にでも有効であるとは限りません。嚥下機能は個人によりさまざまであり、訓練が効果的な症例がある一方で、効果のない場合もあります。
嚥下訓練を過小評価するわけではありませんが、過大な期待を抱くのは危険です。また、今後はそれぞれの訓練方法について、科学的な根拠が示されるべく努力が必要であると指摘されています。
理学療法や作業療法と組み合わせる
こういった嚥下訓練は「嚥下器官」の機能を改善したり、代償能力(補う能力)を用いたりして、「食べ物を飲み込む能力を改善する」ことを目的としていますが、嚥下の能力は嚥下器官の訓練だけで改善するものではありません。嚥下は身体能力の一部であることをまず理解すべきです。
たとえば、嚥下動作中に呼吸運動が止まるなど、嚥下運動は呼吸運動とも密接に関連しています。飲み込みに直接関連する器官や嚥下動作そのものの改善と同時に、こういった周辺の関連した機能の改善を図ることが、嚥下機能の改善にもつながると認識する必要があります。
実際には、理学療法や作業療法などが組み合わせて行われます。これらすべてを含めて「嚥下ができるようになるための訓練」であると理解するのが現実的です。「食べられるようになれば元気になれる」との焦る気持ちを抑えて、「急がば回れ」の精神で、まずは経管栄養などで栄養状態を改善し、体力の回復を図ることが、結局は嚥下機能の改善につながった例もたくさんあります。「元気になれば食べられる」のです。
いずれにしても、嚥下訓練を行うには、嚥下障害の病態と程度を判断し、それに応じた訓練メニューを計画する必要があり、医師・歯科医師・看護師・言語聴覚士・理学療法士・作業療法士・栄養士などのチームアプローチが基本になります。
出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報