四日市公害訴訟(読み)よっかいちこうがいそしょう

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「四日市公害訴訟」の意味・わかりやすい解説

四日市公害訴訟
よっかいちこうがいそしょう

1967年9月,大気汚染により引き起こされた健康被害に対して公害病認定患者,遺族 12人が,四日市石油コンビナート6社を相手どって損害賠償慰謝料などを請求した訴訟。 1960年四日市市塩浜にコンビナートが建設されたが,1965年頃から磯津地区を中心に塩浜地区,港地区などコンビナート周辺で硫黄酸化物など大気汚染物質により,激しい咳や呼吸困難など呼吸器系の疾患の被害が続出した (→四日市喘息 ) 。第1審の津地方裁判所四日市支部は 1972年7月 24日,被告らに共同不法行為があったとして,8800万円あまりの賠償を命じ,ほぼ原告勝訴の判決をくだした。被告らは控訴を断念,判決は確定した。判決趣旨の特徴は,(1) 因果関係は疫学的立証で十分であること,(2) 加害各企業の共同不法行為は成り立つこと,(3) 立地前の調査および操業中の調査を怠ったことで過失が成り立つこと,(4) 被害の重大性から被害者の受忍限度をこえたものとして加害者に責任があると認めたこと,などである。他の訴訟がカドミウム有機水銀の水質汚染による特異性疾患を争っているのに対して (→イタイイタイ病 , 水俣病 , 阿賀野川水銀事件 ) ,四日市訴訟は,大気汚染と呼吸器疾患を問題とした点に特色がある。特に喘息が特異性疾患と異なり,他にいろいろな原因の考えられる病気であること,また大気が水に比べ拡散,流動しやすく,到達経路がつかみにくいことなど,立証が難しいとされている。しかし,このような事態をあくまで被害者救済の立場から因果関係に厳密な立証は不要とし,被告の共同不法行為を認めたことは,集合公害救済への道を開くものとして大きな意義をもつとされている。

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世界大百科事典(旧版)内の四日市公害訴訟の言及

【四日市喘息】より

…なおその後,実験室的にもSO2などの大気汚染物質がモルモットの気道での吸入感作(実験喘息)の成立を強く促進することが認められるようになり,また,後述するように大気汚染の改善によって患者の発生率は急速に低下することが見られた。
[四日市公害訴訟]
 この問題の対策の進展をうながすため,その原因と賠償責任をめぐって,磯津町在住の患者を原告とし,石油コンビナート6社を相手どって1967年に提訴して争われたのが四日市公害訴訟であって,当時の熊本水俣病,新潟水俣病,イタイイタイ病の各訴訟と並んで四大公害訴訟と呼ばれた。しかし,医学的見地から考えると,本疾患の場合には,喘息性疾患は従来からも広く存在し,大気汚染以外の他原因でも起こるいわゆる非特異性疾患であること,大気汚染の発生責任の点でもその発生が複数の排出者による複合したものであることなど,他の公害訴訟とはまったく異なった問題点のあることが強く注目され,この原因論(因果関係)と複数排出者による共同不法行為の成否が大きな争点となった。…

※「四日市公害訴訟」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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