回文(読み)カイブン

デジタル大辞泉 「回文」の意味・読み・例文・類語

かい‐ぶん〔クワイ‐〕【回文/×廻文】

複数の人に順に回して知らせるようにした手紙や通知。回状。まわしぶみ。かいもん
和歌・俳諧などで、上から読んでも下から逆に読んでも同じ音になるように作ってある文句。「たけやぶやけた」の類。かいもん。

かい‐もん〔クワイ‐〕【回文/×廻文】

かいぶん(回文)

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精選版 日本国語大辞典 「回文」の意味・読み・例文・類語

かい‐ぶんクヮイ‥【回文・廻文】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 二人以上の宛名人に順次に回覧して用件を伝える文書。諸役に参勤すべきことや訴訟のときに原告被告に出頭することを命ずるときなどに用いられた。宛名を列記するのが普通であるが、記さないこともある。この状を受けた者は、自分の名の所に、承知の旨あるいは不都合の旨を記して次の者に回した。最後に出したところへ戻る。回状。回文状。回章。まわしぶみ。めぐらしぶみ。
    1. [初出の実例]「先日依去年例調熟食之由、有廻文」(出典:権記‐長保四年(1002)一〇月六日)
    2. 「先廻文(クイブン)御教書を以て、御家人を召るべし」(出典:源平盛衰記(14C前)二〇)
  3. 上から読んでも下から読んでも同文、同文句になるように書いたもの。また、回文歌回文俳諧などを略していう。→回文詩
    1. [初出の実例]「十禅師に奉る百首の上置長歌字、よもじにあたりて侍るに、廻文」(出典:隆祐集(1241頃))
    2. [その他の文献]〔晉書‐烈女伝〕

回文の語誌

( について ) 和歌では、「むら草に草の名はもしそなはらばなぞしも花の咲くに咲くらむ」〔奥儀抄(1135‐44頃)〕がもっとも早い例として知られている。また初夢の歌とされる「長き夜のとをのねぶりのみなめざめ波乗り舟の音のよきかな」は、縁起物として宝舟の絵に添えられた。近代に入って、詩歌のみならず、長文の回文が試みられ、「言葉遊び」の一種として現代にも続いている。


まわし‐ぶみまはし‥【回文】

  1. 〘 名詞 〙 二人以上の宛名人に順次に回して用件を伝える文書。かいぶん。
    1. [初出の実例]「市中の寺に絵踏や廻し文〈四方太〉」(出典:春夏秋冬‐春(1901)〈正岡子規編〉)

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改訂新版 世界大百科事典 「回文」の意味・わかりやすい解説

回文 (かいぶん)

前からも後からも同じに読める文。英語ではパリンドロームpalindromeという。〈良き月夜〉〈夏まで待つな〉〈仇(かたき)が来たか〉〈確かに貸した〉〈わたし負けましたわ〉〈千葉の竹やぶ焼けたの罰(ばち)〉といった庶民的なものから,〈ながめしは野の花々のはじめかな〉のような俳句,江戸時代によく知られていた〈長き夜のとをの眠りのみな目ざめ波のり舟の音のよきかな〉という良い初夢を祈る和歌まで,言霊のさきわう日本には無数の例がある。ただ,同じく江戸の歌人加保茶元成が放屁を歌った〈へ〉を31字並べた狂歌は,やや反則の気味がないとはいえない。現代の新作として,土屋耕一の〈力士手で塩なめなおし,出て仕切り〉〈酢豚つくりモリモリ食ったブス〉を挙げておく。西洋でも,この言語的ウロボロス(自分の尾を嚙んだ蛇)へのあこがれは強い。最も有名な例は〈ΝΙΨΟΝΑΝΟΜΗΜΑΤΑΜΗΜΟΝΑΝΟΨΙΝ〉というギリシア語(ワガ顔ノミナラズワガ罪ヲ洗エ)で,これはイスタンブールからロンドンにいたる多くの教会の聖水盤の側面に刻まれている。ナポレオンの嘆きも回文化されている,〈Able was I ere I saw Elba〉(エルバ島を見るまでは私には力があった)。秀逸なのは,エデンの園における男女(アダムとイブ)初対面の会話であろう。まず女が名を名のる,〈Eve〉。男も自己紹介する,〈Madam,I'm Adam〉。
回文詩
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「回文」の意味・わかりやすい解説

回文
かいぶん

上から読んでも下から読んでも同字・同文になる詞句。「かいもん」ともいい、ヨーロッパではパリンドロームpalindromeという。「竹やぶ焼けた」、“Madam, I'm Adam”のように、言語表現のきわめて特殊なもので、言語遊戯的な要素が強い。

 漢詩では、中国梁(りょう)の簡文帝の「塩飛乱蝶舞 花落飄粉奩 奩粉飄落花 舞蝶乱飛塩」のように全体を倒置するものや、唐の蘇東坡(そとうば)の「落花閑院春衫薄 薄衫春院閑花落 遅日恨依依 依依恨日遅……」のように一句ごとに倒置するもののほか、『本朝文粋(もんずい)』には「多煮茶名 飲来如何 和調体内 散悶除痾」(都良香(みやこのよしか))のように、逆から読むと、また韻を踏み、まったく別の一詩となる例を載せる。

 和歌では、『奥義抄(おうぎしょう)』(藤原清輔(きよすけ)著、1140ころ成立)などに載る「むら草に草の名はもしそなはらばなぞしも花の咲くに咲くらむ」が古く、江戸時代に縁起物の宝船の絵に添えられた「長きよのとをのねぶりの皆めざめ波乗り舟の音のよきかな」は、もっともよく知られた例といってよいだろう。和歌では、上句と下句で文字数が異なるため技巧的に無理があり、遊戯的な特徴が強くなるので、狂歌に作例が多く、『吾吟我(ごぎんわが)集』(石田未得(みとく)著、1650ころ成立)に15首載るほか、『百(もも)よくるま』(三友亭著、1808刊)などの回文歌集もある。

 連歌や俳諧(はいかい)では、字数が整っていて比較的容易につくれるためか、早く『毛吹草(けふきぐさ)』(松江重頼(しげより)著、1645刊)などの作法書が取り上げて作例も多く、『廻文(かいぶん)俳諧百韻』(石田未得著、1644成立)、『水車(みずぐるま)集』(中島随流著、1661刊)ほか回文だけの句集も数多くできている。

[宇田敏彦]

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普及版 字通 「回文」の読み・字形・画数・意味

【回文】かいぶん

回文の詩。

字通「回」の項目を見る

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「回文」の意味・わかりやすい解説

回文
かいぶん

廻文」のページをご覧ください。

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世界大百科事典(旧版)内の回文の言及

【言語遊戯】より

…西洋では,〈言葉の魔方陣〉,〈四角連語〉と呼ばれるもの(図3は上下左右いずれからも有意味に読める)や,散乱したアルファベットの中から上下左右斜めに単語を探し出す〈ワード・サーチ・パズルword search puzzle〉がこれに近い。(4)回文 前からも後ろからも同じに読める句や文。英語ではパリンドロームpalindromeという。…

【宝船】より

…江戸時代には,正月1日もしくは2日の夜に,枕の下に敷いて寝ると吉夢を見ることができると信じられ,お宝売と称して,〈お宝,お宝〉と叫びながらこれを売り歩く者があった。米俵,千両箱,扇子,松竹梅といっためでたい図柄が描かれ,〈なかきよのとおのねふりのみなめさめ なみのりふねのおとのよきかな〉という回文(かいぷん)(下から読んでも同じ文句)の歌が記されたものもある。喜田川守貞の《守貞漫稿》によれば,節分の夜に行われたものが,後に正月2日になったものだとされている。…

※「回文」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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